第85話 剣とペンダント
冒険者ギルドで知り合った二人の女の子と一緒に依頼を受ける事になり、ほぼ部屋着の二人にある程度の動きやすい服と、防具などを渡し着替えてもらっている。しかし、二人は着替える時に人前で裸になったり、下着を見せる事に恥じらいがないなど、余りに無防備なので少し……いや、かなり心配である。
「ケイ~! 着れたよ! 確認して~」
廊下で待っていたオレにも聞こえる程の大きな声で、部屋の中からジュリアの声が聞こえてきた。部屋に入ると一応、服を着る事の出来た二人は自分の服装を見回して最終確認をしていた。
「これで平気?」
「いやいや、パンツ丸見えじゃん! 前は閉めなきゃ」
「これどうやるの?」
「ジッパーっていうんだけど、この金具を上に引っ張ると閉まるからやってみて」
「わ~凄い! ヒモがないからどうするのかと思ってた」
ジッパーは少しオーバーテクノロジーだったかな? ボタンで良かったかも……。その後はズボンにベルトを通してそれにナイフホルダーを付けたり、革の防具の付け方も手伝いながら教えてあげる。
「オレがいない時はお互いに手伝って着れるようにちゃんと覚えてね」
「も、もう一回最初から防具を着てみていいですか?」
「あっ! うん! いいよ」
ルーナの方は本当に慎重というか真面目だから、何も考えていなそうなジュリアとはいいコンビかもしない。実際、そこまで難しくはないので、二回目で二人とも完璧に覚えられたようだ。
「じゃあ、着替えとかも全部カバンにしまっちゃって」
二人は言われた通りにカバンにしまっていく。二人のカバンは登山にも使えるような胸と腰にベルトの付いているリュックサックにしてみた。普段ワンピースを着る二人にはリュックサックは合わないと思ったのだが、結局、普通にデカいショルダーバッグもワンピースには合わないので、背中を守れるというのと機能性を重視した結果である。二人が荷物をしまい終えたのでリュックを背負わせ、胸と腰のベルトの調整をしてあげる。
「苦しくない? オッケー」
「おっけーって何?」
「ああっ! え~と……分かったとか了解って意味かな……」
「そうなんだ。おっけ~!」
いきなり『おっけ~』を使いこなしたジュリアに思わず笑ってしまったが、それとは対照的にルーナは何故か暗い顔をしている。
「ルーナはどうしたの? 気に入らなかった? 多少なら変更できるけど……」
「――いえ、全部気に入りました。でも、こんなに良いものは見た事が無いし、一体いくらになるのかなって……ギルドの登録料もあるし支払えるのか心配になりました」
「ああ、なるほどそういう事か…………じゃあ、空いてる時間にオレの仕事を手伝って、その給金を支払いにあてる?」
「お願いします。何をすればいいですか?」
「そうだね……宣伝と宅配かな?」
「タクハイ?」
「とりあえず、二人の服やバッグとかの、うちの商会が提供した物を宣伝して欲しい。自分からわざわざ言う必要はないんだけど、例えば『そのリュックいいね』って言われたらフェネック商会で買えると教えてあげて欲しい」
「商会はどこにあるんですか?」
「この街にはまだ店がないんだよね……。だから二人が注文を受けるか、オレに知らせに来て欲しいんだよね。そうしたら、いつどこで渡すか伝えられるから……」
店はどこにもないけどね……。
「どこに知らせに行けばいいですか?」
「え~とね…………丘の上のお城」
「「えっ!」」
「うそ……」「ケイさんは領主さまの……」
「違う違う! お客として泊まらせてもらっているだけだから」
「で、でも……凄い」
「う~ん! オレは商人だから細かい事は気にしなくていいよ」
「でも……」
「ケイが気にしなくていいって言ってるんだから、いいんじゃない?」
物分かりが良くて助かるのだが、ジュリアは忘年会の無礼講に騙されるタイプだな……。
「あと宅配っていうのは荷物を運ぶ仕事なんだけど、領主様のお城にオレ宛に荷物を持って行って欲しいんだ」
「えっ? ケイが持てないものを私たち二人で持てるかな?」
「そこまで重いものじゃないよ! 訳があって外部からオレに荷物が届いた方がいいんだよね」
手ぶらのオレが次々にドレスや商品を作り出すのは、不自然すぎるからね……。
「ん~っ、いいんじゃない? それでお給金がもらえるんでしょ?」
「……そ、そうだね」
何も考えずに渡す物を作った結果、一人当たりの料金が鑑定では金貨五枚近くになってしまった。別にあげてもいいんだけど、見返りもなく何でもあげてしまうのもそれはそれで良くない気がする。適当に手伝って貰って頃合いを見て完済という事にすればいいかな……?
「最後に重要なのがこの剣とペンダントなんだけど、剣は一応、武器がないよりはと思って渡しただけだから、無理に戦わないようにね。それとこのペンダントは二人を危機から一度だけ救ってくれるから、肌身離さず付けててね」
何故か二人は黙ってしまった。
「ん? どうした?」
「な、何でもない。ペンダントはケイが付けてよ」
ジュリアにそう言われペンダントを付けてあげると、ルーナにもお願いされて付けてあげる。
「わ、わたし良いお嫁さんになれるように頑張ります」
「ルーナ! ズルい! わ、わたしだって……」
そう言って顔を真っ赤にしている二人に、何か誤解されていることに気付く。
「え~と……何でお嫁さん?」
「だってペンダント……」
話を聞いてみると、彼女たちの村ではプロポーズで、ペンダントを渡す習慣があるらしい。ペンダントの効果を説明して誤解だと分かって貰えたが、どうにもいたたまれない状況である。
「よ、よし、そろそろ依頼に行こうか! ニャンニャン起きて! 出発するよ」
「そ、そうだね」「わ、わかりました」
ニャンニャンはもの凄く大きな欠伸をした。
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