第84話 胸のモヤモヤ

 ボーっと冒険者ギルドの掲示板を眺めていると、オレより年下であろう女の子二人に一緒に依頼を受けようと誘われ一緒に採取に行く事になった。しかし、明らかに二人の格好は魔物に遭遇した時点で成す術がないのだった。




「二人は何歳なの?」




「ルーナ、私たち何歳だっけ?」




「九歳だよ」




 九歳って三年生ぐらいだっけ? やっぱり街で出来る仕事の方が絶対いいよな……。




「う~ん……絶対に森に行きたいって訳じゃないよね? 文字が読めない冒険者の代わりに依頼書の内容を読んだり、代筆したりすればお金になるみたいだよ。危ない森に行くよりそっちの方がいいんじゃないかな?」 




「…………わ、私たち字が読めないの。それに計算も少ししかできないし……」




「えっ? 太陽草の依頼は何で分かったの?」




「それは受付のお姉さんに教えて貰ったの……」




「そうだったんだ……じゃあ、お店の手伝いとかは?」




「いくつか紹介してもらったけど、ルーナと別々のお店になっちゃうって言われたから……」




 なるほど、それで残った手段が太陽草の採取だったのか……。でも、何の備えもしないで森に行くのはやっぱり良くないしな……。




「結局、森に行くしかないのか……よし! 行く前に装備を整えよう」




「えっ!」「私たち大銅貨三枚と銅貨二枚しか持ってないよ……」




 え~と三百二十円か……。




「オレの商会の商品を安く譲ってあげるよ! お代も少しずつ払ってくれればいいし」




「いいの?」「お、お願いします」




「隣が確か宿屋だったよね? 残りのパンでも食べて、ここで待ってて」




「うん、わかった」「わ、わかりました」




 【秘密の部屋】を出す為に隣の宿屋で部屋をかりて、とりあえず渡すものを作ってから二人を呼ぶことにした。










 ♦ ♦ ♦ ♦ 










「いらっしゃいませ!」




 宿に入ると同い年ぐらいの女の子が出迎えてくれた。 




「部屋をかりたいんですが、空いてますか?」




「はい、空いてます。少々お待ち下さい。おかみさ~ん。お客さまです」




 彼女に呼ばれ、カウンターの裏からふくよかなオバちゃんがあらわれる。




「支払いは先払いになるけど平気かい? 素泊まりだと一日、百リーンで、食事付だと百五十リーンでお得だよ! 従魔はその大きさだとプラス五十でいいよ」




 へっ? リーン? お金に単位があったんだ……。一応、聞いてみると一リーンは銅貨一枚らしいので十円という事になるようだ。




「そんな事も知らないとは随分と田舎から来たもんだね」




「ハハハッ……私じゃないんですが、同じ部屋でいいので二人、食事付きで…………ん~っ! 十日ほどお願いします」




「ちょっと待ちな! 計算機を持って来ておくれ」




 言われる前に大銀貨を三枚カウンターの上に置く。




「え~と、二人で三千リーンだね……あんた凄いね! 計算機を使わずに計算したのかい?」




「一応、商人なので……」




「だから、身なりが良かったんだね! お貴族さまならこんな宿にはこないし、冒険者にしては身なりが良かったから疑問に思ってたんだよ」




 良く喋るオバちゃんにつかまりしばらく話した後、二人部屋に案内される。部屋に入ると急いで【秘密の部屋】を出して、必要そうなものを作っていく。余り派手な服で絡まれたら困るので地味な色で、オレの今着ている服や防具、着替え用のワンピースを作り、下着とキャミソールも何点か作っておく。あとは何だろう。カバンとか武器? ブーツと剝ぎ取り用のナイフとかもか……思いつく限り彼女たちに渡すものを作った後、ニャンニャンの顔の色に合わせて、灰色と黒のストライプのリボンも作ってみた。




「ニャンニャン、街にいる時はこのリボンを首に巻いておいてくれる?」




「分かったのです」




「あっ! 付けてあげるからこっちに来て」




「あい」




「お~似合う似合う! 可愛いじゃん」 




「そうなのです?」




 すましているが尻尾がピーンとしてるから、喜んでくれているはずである。ひとまず準備が整ったので、荷物はニャンニャンに見ていて貰って、二人を呼びに戻る事にする。




「じゃあ、よろしくね」




「あい」










 ♦ ♦ ♦ ♦










 宿屋のおかみさんに泊まる二人を紹介して部屋に向かう。




「えっ? えっ?」「ここに泊まれるの?」




「うん! 十日ほど部屋をかりたから使っていいよ! 朝と夜はご飯が出るって」




「いいの? やった~!」




「…………なんで、こんなにしてくれるんですか?」




「ん~っ、オレにも妹がいるからほっとけないからかな……。でもこれは貸しなだけで、返してもらうから恩には思わなくていいよ」




「うん、稼げるようになって絶対に返すね」




「でも、私たちが逃げるかもしれないですよ」




 ジュリアはポジティブというかあまり考えてない感じだけど、ルーナは慎重に考えるタイプなのかもしれない。その時、薬師の師匠の言葉が頭に浮かび、そのまま伝える事にする。




「その時はオレの見る目がなかったって諦めるよ」




「ルーナ、何言ってんのよ! 私はそんな恩を仇で返すような事しないよ! それに私たちは逃げても行く場所がないでしょ」




「そ、そうだけど……もしも逃げたらどうするのかと思って」




 若干、気まずい空気になってしまったが部屋に到着する。




「この部屋だよ! 入って」




 ニャンニャンの待つ部屋に入り、それぞれのベットの上に置かれた物の説明を始める。




「スカートだと色々動くときに大変だから、森に行く時は面倒くさくても、このズボンを履いて後この防具も付けるようにするといいよ」




「ケイみたいな感じね」




「そうそう」




「着て見ていい?」




「良いけど、普段、下着とかはどうし……」




 下着はどうしているか聞こうとする前に、二人はすでにワンピースを脱いでスッポンポンになっていた。どうやら下着は履いていないようだ……。




「ちょっ! 君たち幾ら子供だからって、所かまわず裸になるのは良くないよ。それに分かっててやってる? オレ、男なんだけど……」




「「えっ? ……きゃ~~~っ!」」




 二人は脱いだワンピースで前を隠して、しゃがみ込んでしまった。




「えっ? なんで? オレの事、女の子だと思ってたの? ずっとオレっていってたじゃん」




「うそ~! ケイ、男の子だったの? 女の子がなめられないように、男の子のふりしているのかと思った」




「……見られちゃった」




「見てない見てない。これが下着なんだけど、上も下も小さいリボンが付いてる方が前ね! これをつけてからこっちの服を上から着てみて。ドアの外で待ってるから、分からなかったり着れたら呼んで」




 そう言って動揺をかくしながら、オレは部屋から廊下へ何もなかったかのように出て行った。










 ♦ ♦ ♦ ♦










「ビックリしたね~! 女の子だと思ったから誘ったのに、男の子だったなんて」




「どうする?」




「どうするってここまでして貰って、やっぱり男の子だから一緒に行きたくないって言うの?」




「ジュリアがいいなら私はいいけど……」




「私は一緒に行ってもいいかな! ケイって優しそうだし、それにお金持ちそうじゃん。え~と……これが下着か~リボンが前だったよね」




「うん……そっちが前って言ってた。…………裸見られちゃったね」




「ケイなら別にいいかな? 最初に裸を見せた人とは結婚しなくちゃいけないから、お嫁に貰ってもらわなきゃね」




「ダメ~~ッ!」




 私も思っていた事を先に言われてしまい、思わず大きな声を出してしまった。




「なにっ? 大きいな声出して冗談だよ! ルーナも早く着な! ケイが待ってるよ」




 ジュリアは下着をつけ終わるとドアを開けて、ケイさんに見せに行ってしまった。




「あはは、下着は人に見せる物じゃないって怒られちゃった! でもこれであってるって、多分、ルーナもそれで大丈夫だよ」




 ジュリアはいつも人付き合いがうまく誰とでもすぐ仲良くなれる。いつもは誰と仲良くなっても何とも思わないのに、ケイさんに馴れ馴れしく話すのを見ていると何か少し嫌な気持ちになる。何なんだろうこのモヤモヤした気持ちは……。



 ♦ ♦ ♦ ♦



〇お金


銅貨  10円 →1リーン

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円

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