第83話 二人の冒険者

 冒険者ギルドで登録の手続きが終わるのを待っているのだが、大分混み始めてきてオレの後ろにも人が並んでいる。振り返りギルド内を見回すと掲示板の前に人だかりが出来ている。多分、あそこで依頼を探すのだろう。どんな依頼があるか後で見てみよう。




『戻って来たのです』




『ホントだ! ありがと』




『あい』




 ニャンニャンの声で受付に向き直ると、裏の部屋から受付の女性が戻って来る所だった。銅で出来たドッグタッグのようなプレートを手渡され、簡単な説明を受ける。オレのランクは一番下のブロンズで上のランクの人がパーティーにいれば、一つ上のアイアンランクの依頼までは受けられるらしい。ぼっちのオレには関係ないシステムだな……ブロンズで地道に頑張ろう。 




「それと依頼の失敗やキャンセルは違約金が発生します。違約金が払えなかったり失敗やキャンセルが何回も続く場合は、登録の抹消もございますのでお気を付け下さい」




「なるほど……わかりました」




「他に何か分からない所や質問はございますか?」




「え~と、この子には何かつける物は無いんですか?」




「一応、渡したプレートに従魔の情報も刻印していますが、首輪や布を巻くなどして見分けやすくするのが一般的なようです」




「わかりました。ありがとうございます」 




「他にはご質問はございませんか? ……はい、それでは説明は以上となります。ご登録ありがとうございました。何か分からない事があったらいつでもお声掛け下さい。あ、そうそう、最近、街の付近で白い狼の目撃が相次いでいるようなので、魔物ではないようなんですが、森に入る際はそちらにもお気を付けください」




「そうなんですね。気を付けます。ありがとうございました」




 頭を下げて受付から離れ、掲示板の方に向かう。まあ、普通の動物の狼なら大丈夫でしょ!










 ♦ ♦ ♦ ♦










 掲示板の前には腕組みをして依頼を仲間と吟味する人たちもいるが、何やら子供と話している人や説明を受けている人もいる。どうやら子供たちは小遣いをもらって、字が読めない冒険者に用紙に書かれた依頼内容を教えているようだ。現代の日本では考えられないが、字の読み書きが出来ればこういう稼ぎ方もあるのか……。




 今、見る限りブロンズの依頼は、採取がほとんどで魔物の討伐はないようだ。ざっと目を通し、もう一つの方の掲示板も見に行ってみる。こちらの掲示板にはランクに関係なく受けられる依頼が貼られており、内容はドブさらいや街の糞尿の後始末など、ほとんどが想像していた冒険者の仕事とは程遠い依頼だった。




「う~ん、店の手伝いとかもあるのか……冒険者ギルドというより職業案内所みたいだな……」




『あっちにも掲示板があるのですよ』




『ホントだ! 行ってみよう』




 ニャンニャンに教えて貰い、そっちの掲示板も見に行ってみる。そこにはギルド依頼と言われる冒険者ギルドからの直接の依頼が貼られていた。ここの依頼は受注をしなくても受けられ指定の魔物の討伐をして魔石を納品したり、指定の素材を納品する事で達成となるそうだ。これなら失敗しても違約金が発生しないから、慣れないうちはこっちの依頼の達成を目標にした方がいいかもしれない。




 ギルド依頼の内容をメモ帳に書き留めていく。依頼内容はレンドール近辺の魔物の討伐やポーションの主な材料の納品など数多く貼られていたが、魔狼以外は知らない魔物や植物ばかりだったが、一角ウサギというのは何となく想像できる。




『ニャンニャン、この中に知ってるのってある?』




『全部知っているのです。ディアトリマとグラシリスは危険な魔物なのです』




『えっ! そうなの?』




 両方とも大型の魔物でディアトリマはデカい飛ばない鳥で、グラシリスはサーベルタイガーのような魔物のようだ。確かに推奨ランクはシルバーとなっていたので、もう少しレベルアップしてから考えよう。ニャンニャンの話では、その二頭以外は問題なく依頼達成できるという事だった。




「あの~すみません」「ジュリア、無理だって止めなよ。お貴族さまかもしれないよ」




『ケイ様に言っているみたいなのです』 




『えっ?』




 ニャンニャンに言われて振り返ると二人の女の子が後ろに立っていた。




「も、もしよかったら私たちと一緒に依頼を受けませんか? 私たちも最近、登録したばかりなんだけど、採取に行くのも人数が多い方が危なくないと思うの。最近、街の付近にも狼が出るっていうし……」




「え~と…………」




 明らかに自分より年下の女の子たちに勧誘され、戸惑ってしまう。




『軽く依頼を受けようと思ってたし、この二人だけじゃ危なそうだから一緒に依頼を受けてあげていい?』




『構わないのです』




「だから、止めなって言ったでしょ」




 黙っているので断られると思ったのだろう。




「今日は偶々休みなだけだから、今回だけだけどそれでも良かったら……」




「えっ! ホントに? 良かったね! ルーナ」




「何の依頼を受けるの? あっ! とりあえず、座って話そうか?」




 二人はオレに言われるままに、空いているテーブル席に座る。二人が話し出さないので仕方なくオレが自己紹介をする。




「え~と、とりあえず自己紹介するね! オレの名前はケイでこっちは仲間のニャンニャン」




「凄い! フォレストキャットを仲間にしてるんだ」




「あっ……うん。いい子だから優しくしてあげてね」




「うん! ニャンニャンちゃんもよろしくね!」




「私はジュリア、こっちはルーナよろしくね!」




「ルーナです。よ、よろしくお願いします」




 それから二人と話をしてみると、元々二人はご近所さんで幼馴染みだったそうだ。生活が困窮していた村で、二人とも奴隷商人に売られてしまったらしい。その後、大きな都市への輸送中に奴隷商人のキャラバンが魔狼に襲われ全滅してしまい、檻に入れられていた人間だけが助かったそうだ。木の檻だったので魔狼がいなくなった隙に、中の人間で力を合わせて檻を壊して外に出た後は、足手纏いになりそうな二人は小銭を少し渡され置いて行かれてしまったのだという。




「じゃあ、大変だったね。二人だけで旅をしてこの街まで来たんだ……あれ? でも街に入るのってお金かかるんじゃなかった? それに冒険者の登録料もあるよね……」




 二人は幸運な事に道なりに進んだ結果、一刻ぐらいでこの街に辿り着けたのだという。街に入るお金は貰った小銭でギリギリ払えたらしい。さすがに冒険者の登録料は払えなかったので、分割払いにしてもらったそうだ。




「宿とか食事は?」




 小声で教えてくれたのだが、夜は勝手に人の納屋などで寝ているらしい。そして、食事は教会の炊き出しなどで食べているのだそうだ。




「なら、お腹減ってるでしょう。これ食べていいよ! あと飲み物もど~ぞ!」




 カバンからサンドイッチと果実水を出して、テーブルの上に並べる。




「えっ! いいの?」「…………」




「いいよ! 今から依頼に行くのにお腹が減って二人に倒れられたら、連れて帰ってくるの大変でしょ」




「「ありがとう」」




 二人がカツサンドにカブリつく。




「美味しい~! こんなに大きくて美味しいお肉を食べるのは初めて」「うん、おいひ~! ゴホッゴホッ」




「焦らなくても誰も取らないよ! ゆっくり食べて!」 




 コップに果実水を入れて渡してあげる。




「ありがとう。ゴクゴク…………わ~っ! 何これ美味しい」




「もしかして、ケイさんってお貴族さま? ……ですか?」




「いやいや、違う違う! 一応、こう見えても商人で、冒険者は登録だけをしに来た感じかな」




「そうなんだ……お休みって言ってたもんね」




「…………そうなんだ」




「で、今日は何の依頼を受けるの?」




「私たち太陽草だけはわかるの! だからブロンズの太陽草の依頼と、ギルド依頼の太陽草も数が足りれば納品しようかなって……」




「お~凄いね。わかるんだ? 確かポーションの材料なんだよね」




「そう、でもブロンズの依頼の必要数が五十本だから、もうそろそろ出ださないとマズいかも」




 立ち上がる二人の格好を改めてみて言葉を失う。二人とも革のブーツのようなものを履いてはいるが、ボロボロの袋に穴をあけたようなワンピースと、草を入れる用の袋のみで武器すらも持っていない。




『あんな格好で毎日森に行ってたら、いつか危険な目にあってしまうです』




『確かに……』




 ニャンニャンも同意見のようだ。さて、どうしよう……。

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