第75話 ロウソク男
三階の部屋に案内され、ニャンニャンを抱っこしたまま部屋を見渡す。広さは十畳ぐらいだが、さすがはお貴族さまだけあってガラス窓がしっかりあり、部屋の中が午前中や昼でも暗いという事はなさそうだ。
「そろそろ日が落ちて暗くなりますので、ロウソクを灯しておきますね」
「あっ、お願いします」
リオスさんがそう言うと、後ろにいた使用人の男性がロウソクに近づき、何やらムニュムニュ唱え始める。するとポンッという音と共にロウソクに火が付いた。
「わっ! ビックリした!」
「失礼しました。この者は最近雇った魔術師の一人で火魔法を少々使えるようなので、今のような仕事も担当してもらっております」
「ほ~! そうなんですね」
魔術師だという男性は少し誇らしげな顔で、火が灯ったロウソクで他のロウソクにも火を灯していく。
『違うのです! 今のは無属性魔法の発火なのです。魔力操作が下手だから、あんな大きな音がなるのです』
『えっ? そうなの?』
『それにあの人族は属性魔法の適性がないのです』
『なぬ……』
「それでは私どもは失礼させていただきます。廊下にメイドを控えさせておりますので、御用の際はお声をおかけ下さい」
「ありがとうございました。これ少ないですが……」
リオスさんとロウソクに火を灯してくれた男性に、チップの意味で硬貨を渡す。二人はしばらく固まった後、お礼を言って去って行った。何かマズかったかな……? 結構、奮発したつもりだったんだけど反応薄いし……誰かチップについて教えてくれ~。
♦ ♦ ♦ ♦
「なあ……リオス様、貴族さまっていうのは、いつもこんなに心付けをくれるもんなのか? 貴族さまの部屋のロウソクをつけるだけで、大銀貨が貰えるなら魔術師団をやめて専属にしてもらいたいんだが……」
「――馬鹿を言うな! 誰がロウソクだけつける奴を雇うか! 心付けは働きに対していただけることがあるだけで、毎回もらえるわけではない。今回は長期滞在の初日だからいただけたのだろう。私も長年勤めているが金貨を貰ったのは初めてだ」
「えっ? 金貨を貰ったんすか?」
この男が金貨を貰った所を見ていなかった事を知り、言ってしまった事を後悔する。ここ最近になって雇いはじめた魔術師団の人間は、ガラが悪い者が多く信用ならなかった。聞こえなかったふりをして用件だけを伝える。
「……それでは昨日と同じ場所の灯りを付けに行ってくれ! 終わったら宿舎に戻っていい! 飲みすぎて明日の仕事に遅れるなよ」
「わかってますよ~! でも懐が暖かいからメイドの誰かを誘ってみようかな。じゃあ、俺は行きますね」
そう言って頭を下げると男はうれしそうに走り去っていった。しかし、それがうまくいく事はない。なぜなら、メイドの間ではいやらしい目で見てくるロウソク男として嫌われているからである。魔術の知識が足りず、少しでも魔法が使えればあの男の様に誰かれ構わず雇ってしまい、収拾がつかなくなってしまった。やっと本物の魔術師の方に来ていただけたので、折を見て選別をしてもらえるようにお願いしてみよう。実力のない者を追い出せる絶好の機会が来たのだから逃す手はない。実際、一本の火の灯ったロウソクがあれば、あの男の代わりになるのだから……。
♦ ♦ ♦ ♦
「ただ今戻りました」
「ご苦労様、問題はなかったかしら?」
「はい、問題といいますか、いくつかお伝えしたい事がございます」
「何かしら?」
「ケイ様はやはり貴族ご出身なのではないでしょうか? 扱いも貴族相当の対応を使用人にも、徹底させるべきだと考えています」
「何故そう思ったのかしら?」
「立ち居振る舞いもそうなのですが、心付けを下さる方が平民というのは余りにもおかしな話で……」
「心付け……?」
「はい、心付けで金貨をいただきました。もう一人の使用人は大銀貨を貰ったようです」
周りの使用人から声が漏れる。表情から驚きとは別に嫉妬と羨望が混じっているのを感じる。
「ノアとも貴族ではないかと話していた所です。そう、心付けを……。使用人の対応はリオス、あなたに一任いたします。それとケイの好むもの、嫌いなもの、性的嗜好、恋愛対象の性別なんでも調べて報告させるようにしなさい。あくまで気取られないようにね」
「かしこまりました。それと魔術師の選別をお願いしたいのですが……」
「……それはいいわね。でもできるだけ強制にならないようにと……それ相応の報酬も必要ね……」
これ程、相手の機嫌を損なわないように、慎重なパトリシア様は初めてかもしれません。よほどケイ様を気に入ったのだろう。やはりあれほどの才能の持ち主は、是が非でも我が領に取り込みたいとお考えなのだろう。
「パトリシア様、私もよろしいでしょうか?」
パトリシア様が許可を与え、ノアが話し出す。
「ケイ様は商売をしたいと考えているようですし、この街に報酬として店と土地を与えてはいかがでしょうか? そうすればこの領に住むきっかけになるのではないでしょうか?」
「なるほど……それは良い案ね! では土地と店の場所についてはノアに一任しましょう。それとなく店の場所の希望を聞いておくように」
「かしこまりました」
まだ、この領に到着して半日も経っていないのに、もうこの領の中心になってしまうとは……。フェネック家について一度調べてみた方がいいかもしれない。
♦ ♦ ♦ ♦
「あのロウソクに火をつけてた人って意外と凄いんじゃないかな?」
「全然、凄くないのです。魔力も少ないし操作も下手なのです」
「そうなんだけどさ、自己流だけど適性がないのに自力で無属性の魔法を使えるようになって、魔術師団に入っちゃうって凄い事だよ。ある意味……」
ニャンニャンは首を傾げて納得はしていないようだ。
「無属性って意外と面白そうだよね。でも、あんまり知られていないから、魔導書とかも出てないんだろうな。あったら読んでみたいけど……」
「あるのです」
声に振り返ると、ニャンニャンが両手で無属性魔法の魔導書を持っていた。
「えっ? どこから持ってきたの?」
「闇魔法の影移動の応用で、影の中に物を収納出来るのです」
「ええ~~~っ! すごっ! アイテムボックスじゃん! どのぐらい入るの?」
「あたちの魔力量でも、この部屋の中にある物だったら全部入るのです」
ニャンニャンの説明によると、基本的に入る量は自身の魔力量で決まり、生き物も入れられるようだ。しかし、残念なことに時間は経過してしまうようなので、長期間に渡って食品を入れておくと物にもよるが普通に腐るらしい。それでも、その辺の不衛生な倉庫に入れておくよりはマシだろうし、持ち運びがかなり楽にはなるのは確かだろう。
「凄いよ~闇魔法最高じゃん!」
ほほ~! ベッドも入るという事か……この前の熊とかも入るのでは? ふとニャンニャンをみると何故かモジモジしている。
「おトイレ? 行っておいで」
「ち、違うのです。褒められて嬉しかったのです」
「そうかそうか、ごめんごめん! でも本当に闇魔法は最高だよ。今すぐ教えてよ」
「使えるのです? 見てみていいです?」
「えっ? いいけど何を?」
ニャンニャンは『使える魔法をみるです』といってオレの顔をじっと見ている。スキル? さっきのロウソクの男の人の適性もこれで見たのかな?
「やっぱり、ケイ様は見えないのです。あたちはユニークスキルの看破で、相手の使える魔法が見えるのです。初めて会った時も見たです。でも見えなかったのです」
「えっ? そうなの! でもいい機会だから、お互いの能力とか教え合おうか」
「いいのです?」
「もちろん! 仲間だしいいよ! 逆にニャンニャンはいいの?」
「もちろん、いいのです! 仲良しなのです。でもあたちは魔導具がないと、自分のステータスはみれないのです」
「そうなんだ……あっ! いい事思いついた」
オレはインクと紙を取り出して鑑定で見えたステータスを見ながら、ユニークスキルのものづくりで、オレとニャンニャンのステータスの書かれた紙を作り出した。
♦ ♦ ♦ ♦
〇お金
銅貨 10円
大銅貨 100円
銀貨 1000円
大銀貨 10000円
金貨 100000円
大金貨 1000000円
白金貨 10000000円
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