第67話 冒険者の実力
先に一人で洞窟に入り偵察を終えたジョーさんが戻って来た。
「入ってから少し歩くと戦えるぐらいの広いスペースがある。熊はその中心で今も寝ていた。ヒカリゴケが余り生えていなかったので、中で戦うなら松明が必要だ」
「松明か……臭いで気付かれるな……」
「あの……私が灯りの魔法を使いましょうか?」
「ケイ様が……? そんな事が……で、ではお願いします」
何故か驚かれた気もするが、灯りの担当を受け持つことになった。
「それで作戦としてはミリスの魔法を中心に戦っていく。エドと俺はミリスの詠唱が邪魔されないように、引き付けて隙があれば攻撃。ジョーは全体の援護を頼む。ケイ様は灯りと防御魔法をお願いします」
「わかりました」
冒険者の戦い方を見たかったのもあったので、アルクさんの作戦を承諾した。それにしても凄い魔法への信頼感。魔法が効かなかった時に全滅もありそうだけど……。近接の二人はかなりきついのではないだろうか。
「それでは行きましょう。ケイ様、お願いします」
「光よ、我が道を照らせ『ライト』」
浮遊する光の球が洞窟の中を照らし、みんなから驚きの声が聞こえる。
「こ、これなら確かに松明はいらないですね……」「そ、そうだな……」
光の球を操作して自分の前に浮遊させる。
「もしかして、ケイ様は複数の属性が使えるのでしょうか?」
「――話は後にしろ!」
「そ、そうね……」
アルクさんの言葉でミリスさんの質問は強制終了される。出来れば戦いのごたごたで忘れてくれたら、さらに助かるのだが……。その後は全員に祈りと加護、そしてリフレクションの魔法をかける。
「おおっ! すげぇ、力が湧いてくる」「無詠唱……?」「…………」
「よ、よし、行くぞ」
アルクさんがそう言うとジョーさんを先頭に近接の二人、ミリスさん、オレの順で進む。少し歩くとジョーさんの言っていた通りに開けた場所に出た。その真ん中にはイビキが聞こえなければ岩山と間違ってしまうほど、大きな塊が眠っている。アルクさんのハンドサインでみんなが配置に散らばって行く。オレもライトが熊の顔を照らさないように、コントロールしながら場所を移動する。するとミリスさんが詠唱を始める。
「大気を流れし風を司る精霊シルフよ、我の祈りを聞き届け、敵を切り裂く力を我が手に『ウィンドカッター』」
詠唱長すぎない? 一対一でどうやって戦うんだろう? とか思っていると最初の一撃が黒い塊に当たる。それと同時に近接の二人が斬りつけ、ジョーさんも二人に当たらないように上手く弓を撃っている。オレも光の球を増やして天井に浮かべる。今のでどうせ起きるだろうし、明るいに越したことはないだろう。
「よく見える! 助かるぜ」
エドのその声にかぶせるように、怒りの咆哮をあげて熊が目を覚ます。
「ミリス、二発目の準備を」
「分った」
ミリスさんが位置を変える為に移動をしようとした途端に、急激に熊がミリスさんに向かって突進する。
「まずい、そっちに行ったぞ」
ジョーさんの援護の矢が何本も背中に刺さったが気にする素振りもなく、ひたすらミリスさんに向かって行く。オレも魔法を使おうとしたのだが、位置的に他の人に当たりそうで使えそうにない。もう駄目だと思った瞬間、エドがミリスさんの前に現れ熊の前に立ちはだかる。
「ミリス逃げろ――」「――きゃ~~っ! エド~~!」
右手の一振りで凄い音と共にエドが吹き飛ばされ、真っ赤な血が辺りに飛び散りミリスさんが絶叫する。
「アースウォール」
ミリスさんと熊の間に土魔法で壁を作る。
「ミリス、今のうちに離れろ」
「でも、エドが……」
「大丈夫だ。エドは生きてる」
「でも、あんなに血が……」
気が動転して動けないミリスさんを、アルクさんが熊から離れるように移動させる。
「大丈夫だ、ミリス、今のは俺の血じゃない」
声に振り向くと倒れていたはずのエドが立ち上がっていた。
「エド……?」
「あの人の魔法で助かった」
「エドさんはもう一度、魔法をかけ直すのでこちらに来てください」
「わかった」「ミリス、俺たちはジョーの援護だ」
「わかったわ」
近くに来たエドにリフレクションをかけて、一応、ヒールもかけておく。
「助かる」
エドはそう言うと戦闘に戻っていた。その後ろ姿を見ながらふと思う。もしかしたら、リフレクションって結構強いのかもしれない。狼は頭が吹き飛んだし、熊は右手がほぼ使えなくなってる。全員が攻撃を受けてくれたらすぐ終わる気もするが、やらされる方はたまったもんじゃないしな……。でも、このままだと、この人たちの実力ではかなり苦しいかもしれない。相手は毛むくじゃら、これはあれの出番では……。
「みなさん、戦闘をしながら聞いて下さい。この後、攻撃魔法を撃ちますので、近接の人は少し距離を取って下さい」
「了解しました。エド、ケイ様の動きを見ながら動きをあわせるぞ」
「わかった」
左手で合図を出すと二人が同時に後ろに飛びのく。
「ファイアボール」
見事に熊の顔面をとらえ体に燃え広がって行く。しまった、毛皮……。熊は激しくのたうち回り、かえって大惨事になってしまった気がするが、しばらくすると動かなくなった。
「やったか?」
やめろ! それは言うとまずいセリフランキング上位だ……しかし、アルクさんが確認すると、どうやら倒せていたらしい。
「ふ~、すみません。毛皮をダメにしちゃいました」
「いえ、あのままでは倒すどころか、こちらも危なかった所です」
「ああ、俺もおかげで助かった」「問題ない」
「ケイ様は、やはり複数の属性をあつかえるのですね」
やっぱり気になっちゃうよね~?
「できれば静かに暮らしたいので、秘密にしてもらえると助かります」
「なぜですか? それだけの力があれば地位も名誉も……お金だって好きなだけ手に入るじゃないですか?」
「そうですね……それを得る事がミリスさんの幸せだとしても、私の幸せはそこにはないからとしか……」
「でも――」「――ミリスもういいだろう、人には人の数だけの考え方があるもんだ。それはおまえがとやかく言う事ではない」
「……そ、そうね、ケイ様、失礼いたしました」
「いえいえ、それより熊の肉って村の人は食べるんですかね?」
気まずい空気を変えるべく話題を変える。
「臭いや味にクセがありますが、結構、美味しいと人気ですよ」
「じゃあ、売る肉はこれでいいか……」
「問題ないかと思います。しかし、持って帰るのも一苦労ですな……私が討伐の報告と人手を借りてきますので、解体をお願いしてよろしいですか? みんなも頼む」
「わかりました」
アルクさんが洞窟からいなくなるのを見届けると、みんなで熊の解体に取り掛かる。
「ムニャムニャ。焼いたお肉の匂い、美味しそう。ムニャムニャ」
ハッとして胸元のネコネコをみると、まだ目を覚ましてはいない。寝言のようだが確かに喋った。オレには毛が焦げた臭いしかしないが、美味しい肉の夢を見ているようだ。ネコネコが起きて一緒にお喋りをする所を想像しながら作業をすると、あっという間に時間が過ぎて解体が終わっていた。ネコの可愛さは偉大である。
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