第60話 ちからの使い道

 道具屋を出たあとも二人の案内でいくつかの店を回ったのだが、目ぼしい物や目当ての物は見つからなかった。その際にかなりの人数の獣人とすれ違ったことから、意外とこの街には獣人が多い事に気付く。




「結構、尻尾が生えている人っているんですね」




「んん? ああ、獣人のことですか? この街は猫耳族と犬耳族が多いですね」




 どうやらマーニャさんみたいに、ほぼ人間の見た目の場合は猫耳族と呼ばれ、姿が獣に近づくと猫人族と呼ばれるらしい。地域によっては全てを獣人や獣人族と呼ぶ所もあれば、猫耳族を猫人族と呼んだりする所もあるそうで、厳密には決まっていないようだ。




「姿が獣…………? えっ? 顔が動物の場合もあるって事ですか?」




 狼男みたいな感じって事? 




「いますね。獣頭は普通の人間の何倍も力が強い為、肉体労働や冒険者になる者がほとんどのようです。しかし気性が荒い者が多いので暴力沙汰もしょっちゅう起こしますし、知能もそれほど高くないので犯罪に利用される事も多いようです。出来るだけ関わらないのが正しい選択でしょう」




 何か獣頭ってもの凄く蔑んだ呼び名に聞こえるのだが……。アルクさんはマーニャさんとは普通に接していたけど、頭が獣タイプの獣人の事はあまり好きではないのかもしれない。確かに話を聞くだけでも、関わってもろくな事にならないのは想像に容易い。しかし、知能に関していえば教育を受ける環境や場所がないだけで、それを与えてあげるだけでも大分変わるような気がするのだが……。










 ♦ ♦ ♦ ♦










「ケイ様、市場はここまでですね。まだ時間がありますがいかがいたしましょう?」




「少し早いですが戻りましょう。遅刻してノア様を待たせたら申し訳ないので」




 二人も了承してくれたので、そのまま来た道を引き返すことにする。 




「――ません。…………すみません」




「えっ?」




 今にも消え入りそうな声に気付き振り返ると、小さな女の子が立っていた。




「あ、あの、あの……お、お花を買って下さい」




 勇気を出して声を掛けてきたのだろう。女の子は草を編んで作った緑色のカゴに花を沢山入れて、大事そうに両手で抱えていた。




「おいくら万円?」




「えっ?」




 バイトをしていた居酒屋に来る常連のおじさんのお会計ネタが、異世界では当たり前だが通じなかったので慌てて言い直す。




「あっ! お花の値段を教えてくれる?」




「えっと、ご、五本で銅貨一枚です」 


 


 十円…………。




「ん~~じゃあ、全部貰える?」


 


「えっ! は、はい! え~と、え~と」




 多分、花の数は五十本くらいだろうか、女の子は花が売れて最初はうれしそうだったが、代金の計算ができず、かなり焦っている。




「焦らなくて大丈夫だよ。そうだな……ここだと通る人たちの邪魔になるから通りの端に行って、一緒に幾らになるか計算してみよう」




「は、はい」




 女の子には通りの端でカゴを地面に置いてもらう。




「じゃあ、五本ずつ花をカゴの外に置いていって貰って、五本置く度に銅貨を一枚渡していくね」




「は、はい、一、二、三、四、五」




 女の子は一生懸命に花を数えながら綺麗に地面に並べていく。




「じゃあ、銅貨一枚ね、はい。こんな感じでやれば数が多くて幾らになるか分からなくなっても、大丈夫でしょ?」




「は、はい」




 その後はひたすらこれを繰り返し、カゴと花が三本残った。




「三本残っちゃったね。これも銅貨一枚でいいよ。はい」




 カゴから三本の花も取り出し、銅貨を一枚とカゴを渡してあげる。




「あ、ありがとう……ございます…………カ、カゴはあげます」




「えっ? いいの? 次、売る時にないと困るんじゃないの?」




「だ、大丈夫です。作るの慣れてるので」




「へ~自分で作ったんだ。かなりしっかり編んであるし凄いね」




「お、お母さんが、カゴを作る仕事なので教えてもらいました」




 褒められて、女の子は顔を真っ赤にして照れながらも笑顔で説明してくれた。




「なるほど……だから綺麗に編めるんだね。じゃあ、カゴは有難く貰うね」




 そう言って貰ったカゴに花を入れようとすると、女の子も一緒に手伝ってくれた。




「ありがとう。貰ってばっかりじゃ悪いから、カゴのお礼にパンとかはどうかな? 家族は何人いるの?」




 どうやら彼女は母親と二人暮らしのようなので、二人分のサンドイッチを渡して上げた。今回の売り上げの銅貨十四枚よりも断然喜んでくれているのがわかる。


 


「そういえば、名前聞いていなかったね。私はケイ、お名前教えてくれる?」




「ニコ」




「ニコね。おぼえた。かわいい名前だね。私たちは宿に戻るけどニコはどうするの?」




 彼女も家に帰るらしく、方向が同じだったので一緒に途中まで帰ることになった。ニコと一緒に歩きながら色々聞いてみると、今は七歳になったばかりで母親の助けになる為に毎日、綺麗な花を見つけては市場の通りで売り歩いているそうだ。大体、十日働くと黒パンが一個買えるらしい。将来は母親を楽させてあげる為に、文字や計算を勉強して商人になるのが夢らしい。いい子すぎる……。




 やっぱりこういう子供たちが幸せじゃないと駄目だよな……。オレの力は神様から頂いたものだし、子供や弱い立場の人たちの助けになるように使うのが、一番、正しいのではないだろうか……。


 


「ということは、ニコは教会かどこかで教えて貰っているの?」




「うん、教会に行ける時は行ってる」




 ふむ、教会でも希望者には読み書きと簡単な計算は教えているみたいだけど、その規模を徐々に拡大していく活動をしてもいいかもしれない。いきなり学校を作っても、すでに貧しい家庭では小さな子供たちがニコのように家計を助ける為に働きに出ていて、学校に通う事は難しいだろう。…………いや、子供が働かなくてもいいようにするのが先か……? でも、どうすれば……。とりあえずは何ををするにもお金が必要だし、まずは商売を上手くいかせる事が先決なのかもしれない。




♦ ♦ ♦ ♦ 



〇お金


銅貨  10円

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円

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