第59話 ミリスのお友達 

「凄いですよ! ケイ様、あのおばあちゃんは実は昔、宮廷で薬師をやっていた人なんですよ。そんな人に薬の作り方を習えるなんて……」




 店を出るとミリスさんは目を輝かせてそう教えてくれた。確かこの世界では製法や材料は滅多に他人には教えないし、教えて貰えたとしてもかなりの対価が必要になる。例えその対価が本の翻訳だったとしても、翻訳をすればオレも内容を知る事が出来るわけだし、かなり好条件の話だった。しかし、アルクさんは不満げである。




「それはあくまで自称だろ、それにそんなすごい薬師なら何でこんな田舎の街にいるんだ? 確かに魔法薬の質はいいが……」




 まあ、よく考えたら身分偽装、経歴詐称し放題で、されても調べようがないし嘘をついたり、騙すことがわりと簡単な世界だからね。疑いたくなっても仕方がない。




「このお店の魔法薬は評判がいいみたいですし、私としては魔法薬の作り方がなんとなくでも分かればいいだけなので、経歴とかは別に気にしないので問題ないですよ」




 オレがそう言うと『ケイ様がそうおっしゃるのなら』とひとまずこの話は終わりになった。でもよくよく考えると、あのナイフにあれだけの金額をポンっと出せるんだから意外と凄い人なのかもしれない。それにしてもここの所、簡単に大金が手に入りすぎて感覚がおかしくなりそう……。嬉しいのは嬉しいんだけどね。










 ♦ ♦ ♦ ♦










「ミリス~!」




 市場を歩いていると道の反対側から、ミリスさんの知り合いらしき女性が手を振りながら駆け寄って来た。その女性を間近で見てギョッとする。




「マーニャ、この前は魚ありがとう。美味しかった。ケイ様、こちらは冒険者仲間のマーニャです。マーニャ、こちらの方はケイ様、領主さまのお客様だから失礼のないようにね」




 紹介された女性はオレより少し小柄で、多分、いや絶対に獣人だろう。もしかして、当たり前のことすぎて説明すらされないものなのだろうか? 見た目はというと髪の色は灰色で可愛らしいぱっつんボブっぽい髪型をしている。そして頭の上の方には獣耳がついていて、お尻には髪と同じ色の長い尻尾が生えていた。人間の血の方が濃いからなのか、耳と尻尾以外はほとんど人間のように見える。




「マーニャにゃ、よろしくにゃ、あんまりジロジロみないでほしいにゃ」




 まさかのにゃにゃにゃ語尾と驚いているとミリスさんがマーニャを叱りつける。




「マーニャ! だから、失礼がないようにって言ったばかりでしょ!」 




 確かに上から下まで、遠慮もせず眺めてしまっていたので慌てて謝罪する。




「ごめんなさい。初めて違う種族の人を見たのでジロジロ見ちゃいました」




「初めてにゃ? もしかして、帝国から来たにゃ?」




「いえ、違いますけど」




「良かったにゃ、帝国の奴らは大嫌いにゃ」




 何やら帝国に住む事に不安を感じてきたんだが……。その後、お互いの自己紹介が終わると、マーニャはミリスに何かを渡すと冒険者ギルドに用があるらしく、『またにゃ』と言って去って行った。そういえば、この街には冒険者ギルドがあると言ってたっけ。




「本当にすみません。獣人は言葉遣いがいくら言ってもなおらないので……」




「いえいえ、語尾が可愛くていいじゃないですか。それよりも帝国を相当嫌っているみたいでしたね」




 話を聞くと帝国の支配地域では人族以外を排除したり、奴隷などとして使う地域が増えてきているらしい。もちろん、その中には獣人や亜人が普通に暮らせる地域もあるし、友好的な人間もいるそうだが獣人や亜人からみたら帝国=悪、帝国の人間=悪なのだろう。




「帝国の中にはいくつもの国があって、さまざまな民族がいるわけだから、全ての獣人や亜人の排除は出来ないと思うんだけどな……。共通の敵を作るってやつかな?」




「ケイ様、それはどういう事でしょうか?」




「ん~そうですね…………嫌いな人の悪口を言い合うと、一気に仲良くなる事ってありませんか? 人は自分と同じ敵を持った人や、共通点のある人を好きになるものなんだそうです。それを利用して国民の不満が自分に向かないように、民衆に対して『獣人、亜人は人間を害するもの。よって人類の敵』と思い込ませる事によって共通の敵に仕立て上げるんです」 




「なるほど、それで民衆の怒りや不満の矛先を獣人や亜人に向けさせる事で、怒りや不満を国や皇帝に向けなくさせると……」




「上手くやれば民衆の支持も得られて、皇帝や支配地域の国王としては万々歳でしょうね」




「そんなのマーニャたちが可哀想だわ」




「ん~まあ、あくまで推測ですから……二人もここだけの話にして下さい」




「それでも、ケイ様は帝国に行かれるのですか?」




「…………今すぐに行くわけではないので、もう少し情報を集めてから考えます」




 自分に向けられたものではないにしても、差別や悪意があるような所には正直行きたくない。しかし、まだこの世界の噂や情報がどれだけ正確か分からないし、実際の目で見るのが一番いいんだろうけど……。え~と、これからの予定は領主さまにしばらくお世話になって、その後、この街に戻って来て魔法薬の作り方を習って、そして王都のダンジョンに行く……か。大分、時間あるしその間に少しは帝国の情報も集まるでしょ…………集まるよね……?

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