第57話 異世界でぼったくりにあう

 冒険者の二人と合流することが出来たものの、お目当ての店はまだ開いていないようなので、引き続き朝の市場を見て回る。二人が従者のように付いてきているせいか、一人の時よりも立ち寄る店の主人たちの対応が、丁寧になった気がするのは気のせいだろうか? 見慣れない野菜について店主から話を聞いていると、後ろからおなかの鳴る音が聞こえてきた。




「そうだ、お二人とも朝食は食べましたか?」




 多分、お腹が鳴ったのはミリスさんだが一応、二人に聞いてみた。




「朝、起きるのが遅かったもので……」「私は軽くですが食べてきました」




「そうなんですね。良かったらですが御一緒にいかがですか?」




 宿の朝食は衛生的に不安があった為、最初から断る予定だったので昨夜のうちにサンドイッチを作っておいた。多めに作っておいたので二人にも分けてあげる事にする。




「わっ! 美味しいです」「これはタマゴ? このタマゴについている物がうまい。どこで買いましたか? 今度、行ってみなくては」




「タマゴについているのは、主にマヨネーズっていう調味料です。残念ながら私が作った物なのでこの街では買えないですね」




「なんと……」「ケイ様は多才なのですね……」




「そんなことないですよ、パンにはさむだけの簡単なものですし」




 そういえば、ノアさまをはじめとしてこの二人もオレに対する接し方や、しゃべり方が変わってきた気がする。『ケイ様』って呼ぶようになったし……最初からだっけ? これって後で貴族じゃない事が分かったらどうなるんだろう? まあ、長く付き合っていく訳では無いからそこまで考えなくてもいいか……。




「そうだ、アルクさん、昨日は私のかわりに色々と食べてもらってすみませんでした」




 ふと昨日の夕飯を思い出してお詫びをすると、アルクさんは笑って許してくれた。一応、マナーについても聞いておいたのだが、出された料理を残すのはマナー違反ではないらしい。しかし、貴族の食事会などでは相手の好みを事前に調べて料理を出すのが普通なので、一口も食べずに残すのは出来ればやめた方がいいと言われた。確かに好きだと思って出したのに手も付けずに残されたら、何か不手際があったのかと心配させちゃうからね。




「なるほど、国によってマナーは異なりますしケイ様も大変なのですな……。ではそろそろ店も開き始める頃ですし、予定通り先にスパイスの店にいった後、魔法関連の店にご案内しますね。他の店は時間があればという事で……」




「はい、それでお願いします」




 その後、少しして食事も終わり、二人の案内で目的の店に向かう事になった。










 ♦ ♦ ♦ ♦










「いらっしゃい……ませ。何をご用意いたしましょう?」




 しかめっ面をして座っていた店主が立ち上がり、満面の笑みで近寄って来る。多分、オレの服装と案内の二人をみて、金払いが良さそうに見えたのか凄い変わり身の早さである。店内には木の箱が台の上にずらりと隙間なく並べられ、その中には色とりどりのスパイスが入れらている。山盛りに積まれたスパイスには種類ごとに小さめの木のスコップのようなものと、値段の書いてある木札が突き刺してある。




「え~と、あっ! ハーブも置いてあるんですね。まず胡椒と砂糖が欲しいんですが、種類を見せて貰えますか?」




「…………あいにく胡椒と砂糖は一種類しかありません。砂糖は一袋で金貨二枚と銀貨八枚、胡椒は一袋で金貨二枚と大銀貨五枚になりますが?」




 はぁ? 高っ! 五百グラムあるかないかで、両方とも二十万円以上するんだが……。鑑定すると相場よりも両方ともちょうど金貨一枚分ほど高い。このおやじ、子供だと思って二十万もぼったくるつもりらしい。




「……おかしいですね。相場より金貨一枚ほど高いですね」




「何を……」




 店主は何か言いかけて、オレが胸に付けようとしているゴールドのギルドバッジを見て固まる。




「こう見えて商業ギルドに登録しているんですよ。まさか、本当にそんな値段で商売しているんですか?」




「しまった! しまった! いや~申し訳ありません。計算を間違えてしまったようです。お詫びといってはなんですが、今日は両方で金貨二枚にさせて頂きます」




 わざとらしい……間違いなわけないだろう。しかし、約六万円の値引きか……。でも、最初は二十万ぼったくろうとしてたよね……許さん! ここで一つ、お仕置きをする為の少し強引な案が浮かぶ。




「えっ! 今日は両方で金貨二枚でいいんですか? じゃあ、もう一袋ずつ頂きますね。全部で金貨四枚はかなりお得ですね。何か逆に申し訳ないです。ありがとうございます」




 ここで、あえて空気が読めないフリをする。




「いや、それはあのそういう意味では……」




 そこで、アルクさんが腰に下げた剣を握る金属音が店内に響く。




「……は、はい、金貨四枚にさせて頂きます」




 店主は諦めてすべてを受け入れて、その後は抜け殻のようになった。




「何か申し訳ないので、他のスパイスも買っていきますね。もちろん、こちらは通常の値段で構わないです」




「…………は、はい、ありがとうございます。木札の値段がそちらの匙ですくった一杯分の値段になります」




 抜け殻になった店主は、ほぼ定型文をしゃべるだけになった。なるほど、この木のスコップみたいな物ですくうのか……って、高っ! こちらは鑑定してみるときちんと相場内の値段だった。もしかして、スパイス屋って儲かる……?




 こうして約金貨五枚分の買い物をしてスパイス店を後にした。




♦ ♦ ♦ ♦




〇お金


銅貨  10円

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円

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