第56話 いろいろなおじさん
商業ギルドの登録も無事に終わり、朝の市場を行ってみる事にする。登録が予定よりも早く終わってしまった為、まだ来ていない案内役のアルクさんとミリスさんには、伝言を残し近くの店を覘きながら待つ事にした。この朝の市場は商業ギルドから真っすぐのびる大きな通りで、ほぼ毎日開かれているそうで、早い時間にも関わらず活気に満ちていた。
大通りにはずらりと露店が並んでおり、とても賑やかで見ているだけで楽しい。食材が多いようだが、布、食器、ナイフなどの食材以外を売っている人もいるようだ。声をかけてくる店主たちと、適当に言葉を交わしながら店の商品をみせてもらう。確かにみんな左胸にギルドバッジを付けているのだが、オレが貰ったバッジとは色が違っていた。どうやら人によって違うらしい。ランク的な物があるとかかな? と疑問に思い、自分のバッジを取り出して見ていると、ナイフを売っているおっちゃんに声をかけられる。
「お嬢さん、お忍びか何かかい? 護身用に一本どうだい?」
「えっ?」
「何で、わかったんだって顔してるな。着ている服を見れば一目でわかるよ、こう見えても、昔はお貴族さまが来るような商会で働いていた事があるんだ。あと、風呂は貴族だけの贅沢だしな」
す、すごい……知ったかぶり……そもそも男だし。なるほど、この服でもまだ高級品にみえちゃうのか……。それに風呂は盲点だった。清潔すぎても分かってしまうのか。いや、石鹸の匂いか?
「貴族ではないですよ。おじさんと一緒で商人をやっていく予定です。さっきなったばかりの新人ですけど……」
「冗談だろ! 俺なんか五回目でやっと受かったんだ。その年齢であの試験に受かるわけ……ならバッジを貰ったはずだが持ってるか?」
オレのバッジはおっさんのバッジの色と違ってゴールドだし、面倒な事になりそうなので見せたくないが、何で色が違うかは聞いておきたい。少し考えて証明書の方を見せることにした。
「バッジは奥にしまっちゃったので、証明書なら、ほら」
「本当だったのか……疑ってすまなかった」
「いえいえ、別に気にしてないです。一つだけ気になっている事があるんですが、聞いてもいいですか?」
「何でも聞いていいぞ。ちなみに歳は二十九で彼女はいないぞ」
「そうですか、バッジの色が違う人を何人も見かけたんですが、色によって違いがあるんですか?」
何か彼女いない発言に鳥肌が立ったが、軽く話を流しておく。
「ああ、そんな事か」
何故か残念そうだったが、おっさんの話によると商業ギルドにもランクがあるらしい。ランクが上がるほど様々な特権が得られ、商業ギルドからの様々な支援が得られるという。
「ゴールドの人がいたんですけど、あれは凄いんですか?」
自分のバッジの色についても、さり気なく探ってみる。
「ゴールドか……この街にはいないはずだから、多分、よその街のお偉いさんだな。一般人には縁がないがゴールドなら商業ギルドに依頼すれば、貴重な商品や素材を優先的に揃えてもらえるし、店の開業資金もかなりの補助金を出してくれるだろうな。貴族とも商売が出来るようになるから、貴族みたいな生活も夢じゃない。全く、羨ましい限りだよ」
そういえば、ハンナさんがそんな事を言っていた気がする。話のお礼に何か買っていこうかとも思ったのだが、ロクな商品を置いていなかったので、ナイフおじさんにお礼だけ言ってその場から立ち去った。
商人が貴族みたいな生活をしたら、貴族から反発が起きるのは目に見えている。貴族みたいな生活はしたいとも思わないが、悪意を向けられた時の為に備えは必要だな……。後ろ盾とかを考えると、結局、貴族か……。自分で何とかならないもんかな……? そんな事を考えながら、朝市の人込みを歩いているとある物を見つける。
「あっ! おじさん、これ」
お目当てのものを見つけた為、興奮して思わず声が大きくなってしまった。
「いらっしゃい。この大きな実を切って中の甘い水を飲むんだ。甘くてうまいぞ! 飲んでみるかい。一個、銀貨一枚でいいよ」
「高っ!」
ココナッツジュースが千円……元の世界で海外旅行に行って飲んだ時は、日本円で百円ぐらいだった記憶がある。
「そりゃそうだ、運搬に金がかかってるからな。この辺では育たない珍しい実なんだぞ」
確かに熱帯地域ってイメージがあるし、この辺りにはなさそう。別に飲みたくはないんだよね。冷えていないから温そうだし……。どっちかっていうと、シャンプーの材料として欲しいんだよね。一個千円? う~ん……。
「わ、わかったわかった。一個、大銅貨五枚ならどうだ?」
悩んでいると何故か半額になった。最初は服装をみて吹っ掛けてきたのかもしれない。
「おじさん、まとめて買うからもっと安くならない?」
「数にもよるな、いくつ買うつもりなんだ?」
「問題ないならここにある全部」
「なっ! 二十個はあるぞ、そんなに金を持ってるのか?」
「値段によるけど……」
ココナッツおじさんは悩んでいたが、ある提案をしてくる。
「倉庫にあと二十個あるんだが、それも買ってくれるなら全部で大銀貨一枚でいい」
なぬ、え~と四十個で一万円だから一個二百五十円か……。
「う~ん、買います」
「本当か? 助かったよ。全然、売れなくて困ってたんだ。どこに運べばいい?」
どうやら配達込みの料金だったらしい。何となく気付いていたが、やっぱり売れていなかったらしい。せめて冷やしてもう少し安くしたら売れたかもね。
「え~と、倉庫に連れて行ってもらえますか? 全部まとめて持って帰ります」
「すぐこの裏が俺の家なんだ。倉庫はそこにある。でも一人じゃ無理だろう。誰か呼ぶのか?」
「そうですね。二人ほど、あとから来る予定なんで大丈夫ですよ」
隙を見て【秘密の部屋】に運ぶのが一番良いんだけど……。通りで売りに出していた物も全て倉庫に持って行って貰った所で、おじさんが何かを取りに家に入って行ったので、早速きたチャンスを生かして、全てのココナッツを【秘密の部屋】に運び込む。
「待っている間に飲み物でもと思って入れてきたんだが、お仲間はどのくらいで取りに来れそうだい?」
しばらくして、店主がお盆に木のコップをのせて戻って来たので、運び終えたことを伝える。
「あっ、今、全部持って行って貰った所です」
「えっ?」「――ケイ様、遅くなりました」
おじさんの驚く声に重なり声が聞こえた。声がした方向に振り返るとアルクさんとミリスさんが立っていた。
「あっ! おはようございます。全然、遅くないですよ、早く終わったんで、ちょっと市場をみていました」
「おはようございます。商人ギルドの登録ができたみたいですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。何とか受かりました」
「えっ! 様……ギルドの登録? この子供が?」
後ろから思いっ切りココナッツおじさんの独り言が聞こえるが、気にしないで振り向き話しかける。
「それでは、商品の代金をお支払いしますね」
大銀貨一枚をおじさんに手渡す。
「確かに頂きました。私の商会は他の領地などから、色々おもしろい商品を仕入れておりますので、何か仕入れて欲しい物がございましたら、いつでも申しつけ下さい。この度はお取引ありがとうございました」
急に敬語というか、喋り方が変わって商人モードになったな。二人との会話で何か勘違いしたんだろう。
「その時はお願いしますね」
もちろん、勘違いはそのままに、ココナッツおじさんに挨拶をして通りに戻った。
♦ ♦ ♦ ♦
〇お金
銅貨 10円
大銅貨 100円
銀貨 1000円
大銀貨 10000円
金貨 100000円
大金貨 1000000円
白金貨 10000000円
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