第46話 魔狼との戦い

 無事にメイドさんを安全な場所に連れ戻り、兵士の手助けに向かう。また、心配されて馬車に戻るように言われる前に、こちらから大声で話しかけて主導権を握る。




「魔法で支援します。魔狼を警戒したまま、こちらに集まって下さい」




「わ、わかりました」




 素直に従ってくれるか心配だったが、先ほど馬車に使った魔法を見ていたからか、御者と兵士は言葉に従ってくれるようだ。魔狼がいるであろう草むらに剣を向けて、構えたまま後ろに下がって来る。




「うわっ、しまった!」




 余りにも前方に意識が行き過ぎていたのか、一人の御者が木の根に足を取られ後ろに倒れてしまった。それを見逃さず草むらの中から、黒い影が唸り声を上げながら御者に飛び掛かる。




「リフレクション」




 急いで、転んだ御者に守りの魔法をかける。




「うわぁあああ!」




 『キィーン』という金属音のような音が聞こえたかと思うと血しぶきが上がり、想像よりも大きな黒い影が御者の上に覆いかぶさる。更にもう一頭も草むらから飛び出し、こちらに向かって凄い速さで走って来る。




「くそっ! ウォーターカッター!」




「ギャン!」




「なっ!」「一撃?」




 魔法が魔狼の胴体に当たり真っ二つになる。倒したのを確認すると、すぐさま襲われた御者を助けに向かう。




「は、早くどかしてくれ」




「な、何が起きた……」「こっちも倒したのか?」




 よく見ると御者に覆いかぶさっている魔狼の頭がない……。どうやらさっきの血しぶきは、魔狼のものだったようだ。




「一応、何人かが周りを警戒して、残りが彼の救出に行きましょう」




「わ、わかりました。行くぞ!」




 その間に全員に祈りと加護を発動させ、探索魔法でもう一度まわりを索敵してみる。




「どうやら、こっちにはもういないようです。冒険者さんの方にまだ一頭残っていますが、任せちゃっていいのかな?」




「彼らはもうすぐシルバーになると街でも噂されていますし、実力的にも問題ないと思います」




「シルバー?」




 兵士の話では冒険者にはランクがあり、彼らはそのアイアンランクらしい。いまいち、凄さが分からないのだが……。話していると、ここにいた全員が集まって来た。どうにか魔狼の下敷きになった御者も引きずり出せたらしい。




「聖女さま、この度は命を救って頂きありがとうございます。この御恩はいつか必ずお返しいたします」




 御者は跪き、オレの手の甲を自分の額に押し当てた。このやり取りには正直うんざりしている。しかし感謝の気持ちを表している相手を無下にもできず、アルバイトで鍛えた作り笑いで対応する。




「無事で何よりです。それよりも皆さんに、生意気に指示をしてしまってすみませんでした」




「とんでもありません、魔物と戦い慣れていない私たちには非常に助けになりました」




 へっ? なんでこの人たち慣れていないの? その理由を考えているとさらに質問がとんでくる。




「聖女さまは、戦場で指揮をした経験がおありなのですか?」




「ないです、ないです。それが嫌で平和な国に行こうと思っているのに……っていうか、なんで聖女? そういえば、助けたメイドさんにも、そう呼ばれたような……」




 答えは簡単だった。村の見送りで大声でそう呼ばれていたからである。




「さて、どうしましょう? 普段は倒した魔物はどうしていますか?」




「魔石と自分が必要な部位だけを、普段は持って帰ることが多いようです。持ちきれない部分は埋めるか燃やす事が推奨されていますが、ほとんど守られていないのが現状です。内臓以外はすべて街などで取引されるているので、ポーターを雇ってから狩りをする冒険者もいるそうです」




 目的地までの移動が優先になるだろうから、魔石をとるぐらいしかできないかな? でもあの黒い毛皮は欲しいな、床に敷くラグとかもいいし他にも面白そうな物が作れそう。




「権利は倒した者やパーティーの物になりますので、この二頭はすべて聖女さまの物となります」




 みんながいるから部屋は出せないし……でも欲しいな……。




「出来れば毛皮と魔石は欲しいですけど、とりあえず、魔物を倒した事をノア様に伝えに行きましょう」  




「かしこまりました。解体は進めておくのでお任せください」




「えっ! いいんですか?」




「もちろんです。お前たちは解体を頼む。では、行きましょう」




 どうやら、兵士の中でこの人が一番偉いようだ。




「じゃ、じゃあ、お願いします。すぐ戻って手伝いますね」




 御者の二人も一緒に戻り、残りの三人の兵士が解体をしていてくれるらしい。後でお礼をした方がいいかもしれない。




「聖女さま、私たちも手伝いたいのですが、馬の管理がありますので申し訳ありません」




「自分の仕事を優先するのは、当たり前の事ですから謝る必要はないですよ」




 御者と話をしていると今度は兵士が話しかけてくる。




「私は魔法をまじかで見た事はありませんでしたが、あれほどの威力があるとは知りませんでした。領主さまが魔術師を探されていた意味が、初めて分かった気がします」




 ちょっと待って、今、探してたって言った? まさか監禁とかはされないよね? そんな事になったら全力で逃げるけど……。上手く話を誘導して探している理由を聞き出そうとしてみたが、見当はずれな話しか聞く事が出来なかった。そうこうしている内に休憩をとっていた場所に到着し、御者の二人は馬の確認の為に離れていった。ここから見た感じだと、馬たちも大丈夫そうに見える。よかったよかった。




 馬車にたどり着くと、兵士は兜を脱ぎ扉ををノックする。兜を脱いだ顔を見て気づいたのだが、昨日もいたノア様の従者の一人だった。




「報告いたします。魔物の総数、五頭、現在四頭の討伐を終え、残りの一頭と冒険者が交戦中です」




 馬車の中から安堵の声も聞こえ扉が開かれる。




「ケイ様、よくぞ御無事で」




「あっ、終わったみたいですね」




「はっ?」 




 困惑しているノア様に、冒険者が最後の一頭の討伐を終えた事を伝えた。ノア様はキョロキョロと周りを見渡した後、質問をしてきた。




「そのようなこともわかるのですか?」




「あっと、え~と魔物の悲鳴のようなものが聞こえたので、聞こえませんでした? あははは」




 実際は探索魔法で反応が消えたのを確認したのだが、何かまずかった気がして笑って誤魔化した。

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