第47話 儀式用のナイフ

 ノア様に魔物の討伐の報告を終えたので、解体の手伝いに行きたい所だったが、一旦、冒険者パーティーと情報交換をしてからという事になった。そして、しばらく待っているとリーダーのアルクさんだけが現れた。




「ノア様、こちらの討伐は完了いたしました。兵士側に援護が必要でしたら今すぐ呼び寄せますが」




「それには及ばない、残りはケイ様の魔法によって討伐された。契約通り、倒した魔物は馬車に積んでもらって構わない」




「このお嬢さまが……? ということは、このとんでもなく大きな守りの魔法もお嬢さまの魔法って事か……」




「魔物を倒しきるまで、どうにか効果がもってくれたようで良かったです。ノア様、私も少し素材が欲しいのでお時間をいただけますか?」




 あれこれ聞かれる前にさっさと解体に行ってしまおう。




「もちろん、構いませんが街でも解体をしてくれる店があるので、少しと言わず全部、馬車に積んでもらって問題ありません」




「お嬢さま、内臓を取り出して血抜きをしておくと、解体費用が安くなるし肉が高値で売れますよ」




 ノア様に顔を向けると頷き、許可をしてくれた。




「時間でしたら気にしなくて構いません。彼らのパーティーもすでに肉の処理をしているはずですから」




 アルクさんの方を見ると頷いているので、どうやらそうらしい。




「それでは、私もそこまでの処理をしてきちゃいますね」




「わかりました。それではお前はここに残り馬車の警護を、アルクはケイ様の警護をしてくれ」




「「ハッ! かしこまりました」」




 ノア様の指示で従者の人はこちらに残り、アルクさんが警護としてついて来てくれるそうだ。許可をもらったので魔狼の解体にアルクさんと話しながら向かう。その時に疑問に思ったので聞いてみたのだが、道中で冒険者が倒した魔物や獣の素材を馬車にのせて運ぶのも護衛の契約に含まれているそうだ。しかし、これはノア様が優しいというわけではなくて、護衛の依頼ではこれが普通なのだという。




「へ~、冒険者にはありがたいですね。 あっ、あそこです! おまたせしました~」




 解体作業をしている兵士が見えてきたので手を振って声を掛ける。すると、兵士もこちらに気付き手を振り返してくれた。その中の一人の兵士が立ち上がりこちらに向かってくる。




「聖女さま、こちらが魔石になります」




 お礼を言って魔石を受け取る。オークよりは小さい魔石だったが深い赤の綺麗な魔石だった。




「じゃ、出来るだけ早く終わらせますね」




 カバンから髑髏ナイフを取り出し、解体に向かおうとすると兵士たちがそれを止める。




「なっ、聖女さまも解体をする気ですか? そんなことは我々がやりますので指示だけをなさって下さい」




 兵士の人たちはそう言うが、手伝って貰ってるのに自分だけ見てるとかありえないでしょ。




「いえ、人数が多い方が早いですし、結構、得意なんですよ。解体」




「し、しかし」




「ガハハハ、面白いじゃないか、それに本人がやりたいと言っているんだし、やってもらえば良いんじゃないか?」  




 結局、アルクさんの言葉で、渋々ながら解体する事を兵士たちは了承してくれた。とりあえず、内臓は取り除いてくれていたようなので木に吊るしてもらう。




「んっ? この魔狼の頭はどうしたんだ?」




 アルクさんは答えを待たずに、さらにもう一頭の亡骸を見に行く。




「……こっちの魔狼も一撃……。さらにあの大きな防御魔法か……あなたは一体何者なんだ?」




 魔狼の亡骸を調べていたアルクさんが、険しい顔でこちらに振り返った。




「え~と、商人見習いです」




 それを聞いて兵士たちは大笑いしているが、アルクさんは全然笑っていないし何か言いたそうな顔をしている。面倒臭いので何か言われる前に、兵士に手伝いをお願いしてこの話を終わらせる事にする。


 


「それじゃあ、血抜きが終わるのを待っている間に、皮を剥いじゃうので手伝って貰えますか?」




「もちろんです」




 不満げな表情のアルクさんを尻目に、逃げるように兵士たちと作業を始めた。


 




 


 ♦ ♦ ♦ ♦








 皮を剥ぎ終わり、バレないように肉に料理スキルの保存を使い、魔狼の皮には神聖魔法で浄化をしておく。




「それにしても聖女さまのナイフは凄い切れ味ですな。一度、見せて頂いてもよろしいですか?」




 了承して兵士にナイフを渡すとみんなで集まって見始めた。




「ほら、やっぱり石だっただろ!」「くそっ! 普通、石であんなに切れるとは思わないだろ」「嘘だろ!」




「勝ちは勝ちだからな、後で銀貨一枚ずつな」「くそっ! 分かったよ」「最初は石だと思ってたんだよな~」




 どうやら、ナイフの素材で賭けをしていたらしい。そこに、アルクさんもやって来る。




「私にも見せて頂いてよろしいですか?」




 頷くとアルクさんは兵士からナイフを受け取り、じっくりと眺めるとナイフについて語り出した。




「多分、これはダンジョンや遺跡から稀に見つかる儀式用のナイフですね。しかも、ナイフの柄の部分の木と髑髏の彫刻が溶けて一つになったようだ。このような技術はドワーフでも再現は難しいでしょう。最低でも金貨十、いや二十枚はするのではないでしょうか……」 




 自分の発言ではないのだが、もの凄く恥ずかしい気持ちになり、いたたまれなくなる。アルクさんの言葉に兵士たちは驚いているが、残りのナイフを全部出して『私が作りました』と言ったらこの人たちはどんな顔をするのだろう。しかし、それでは余りにもアルクさんが可哀想なのでやめておいてあげた。




 知ったかぶり、駄目、絶対。だって聞いてるこっちが恥ずかしくなるから……。

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