第45話 戻らないメイド
まろう? 多分、この騒ぎだと魔物が出たのだろう。理解していない事に気付いたのか、セレスさんが補足してくれた。
「魔物化した狼の群れが出たようです」
「ああ、魔のオオカミで魔狼か……大丈夫なんですか?」
その質問にノア様は笑顔で答えてくれた。
「その為に冒険者を雇っているので、魔狼ぐらいだったらすぐに片付けてくれるでしょう」
その時、扉がノックされ兵士の大きな声が響く。
「ノア様、メイドが二名、まだ戻って来ていません! いかがいたしましょう?」
どうやら扉は閉じたまま、話すらしい。
「やむを得ない、兵士は引き続き、馬車の警護を!」
兵士は大きな返事をして持ち場に戻って行った。メイドさんたちを見捨てるって事? 探索魔法で周りの様子を探ってみる。
「……メイドたちには悪いが助かる事を祈ろう」
ノア様が力なく呟いた。
「あっ! 見付けた。ちょっと行ってきますね」
魔狼とメイドさんたちの場所を把握したので、ノア様の返事は待たず、扉を開け馬車の外に飛び出す。それを見た兵士が叫ぶ。
「外は危険です。早くなかへ」
「え~と、魔法で魔狼の位置を探りました。冒険者さんの戦っている三頭の他に、裏から回って来ている二頭が、そっちの方角からこっちに向かって来てますので警戒して下さい。私はメイドさんたちを保護してきますので」
一応、もしもの時の為に二台の馬車に、別々にプロテクションの魔法をかける。すると馬車は光る半球に包まれた。
「これは……」
戸惑う兵士に説明をする。
「魔物の攻撃を防ぐ守りの魔法です。魔物はこの中には入れないので、危ない場合はこの中に移動する事をおすすめします。信じられなければ無理にとは言いませんが、それでは後は頼みますね」
説明を終えるとメイドさんの居る場所に走り出した。兵士が何か叫んでいたが気にせずに向かう。幸運な事にメイドさんたちは魔狼とは反対側にいるようだ。しばらく進むと、大きな木の根っこの部分にうずくまる二人の姿をみつける。
「二人とも大丈夫ですか?」
「「ヒイィ!」」
急に話しかけたので魔物と勘違いしたのか、二人とも恐怖で顔が引きつらせて固まっている。
「大丈夫、落ち着いて下さい。迎えに来ましたよ」
落ち着かせる為に少し話をする。どうやら兵士の叫ぶ声がして魔物の襲撃に気付き、ここに隠れていたらしい。あれ? ここの方がもしかして安全だったりする? でも来てしまったものは仕方が無い、責任を持って連れて帰ろう。しかし、どう見ても子供の見た目のオレの指示に従うだろうか? 力を見せて安心してついて来てもらう事にする。
一人はスカートの膝の辺りが破れていて血が出ていた。多分、転んだのだろう。もう一人も念のために一緒に治療する事にする。
「では、二人とも立って下さい。まず治療をしますね」
「「えっ!」」
「聖なる癒しを、ヒール」
もちろん、ただのヒールだがそれっぽく言って二人に手のひらをかざす。すると、二人の体が輝き、傷がすぐさま癒えていく。それを、目の当たりにした二人は驚きの声をあげる。
「これは……」「傷が……」
驚いている二人に更に畳みかける。
「では一緒に祈って御加護を頂きましょう」
訳も分からない感じだが、二人はすんなり従って目を閉じて祈り始めた。そのすきに祈りと加護も発動しておく。
「癒しと守りを司る聖なる女神よ、我らの祈りを聞き届け、聖なる御加護を与え給え、リフレクション」
「体がほんのりあたたかくなって、力が湧いてくるようです」「…………」
まあ、バフかけたからね……。
「祈りが通じたのでしょう。では二人とも私の後ろからついて来て下さい。あなたたちの事は私が命にかえても守ります」
自分で言っていても、インチキ宗教のようだが二人には効果覿面だったようだ。
「私の命は聖女さまにお預けいたします」「わ、私もお預けいたします」
すでに聖女と呼ばれても、何とも思わなくなってきてるな……。
「では、行きます」
二人が後ろをついてくるのを確認してゆっくり進んで行く。また過剰演出だったかもしれないが、二人が従ってくれているので良しとしよう。馬車の場所まで戻ってくると、兵士たちの怒号が響き渡っている。魔物の姿は丁度、木の陰になって見えないが、四人の兵士と御者が武器を構えながら大声を上げている姿が見えた。どうやら馬車に魔物が近づかないように牽制しているだけで、積極的に倒す感じではないらしい。
「二人とも、今のうちに馬車の中へ」
近い方のノア様が乗っている馬車に行き、二人を乗せてもらう。
「おお、お前たち、よくぞ無事で」
「聖女さまのおかげです」
安心したのか二人は泣き出してしまった。
「ちょっと手伝ってきますね。守りの魔法をかけてあるので、みなさんは、この中から出なければ大丈夫ですよ」
それを聞いて、助けたメイドの一人が引き止めてきたが、危なくなったら戻って来るからと言って、何とか納得させる事が出来た。
「ケイ様は単独でオークを倒すほどの魔術師だ。ここは、お任せしよう」
「「「…………」」」
ダメ押しのノア様の一言で誰も何も言わなくなった。というか、唖然としていた。
「で、では、行ってきますね」
挨拶を済ますと馬車の扉を閉め、合流すべく兵士たちのもとへ向かった。
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