第44話 魔狼の群れ
今、何故か馬どもに尻を向けられている。労いの為にヒールと祈りをかけてやったのに、この仕打ち……。子供だと思って舐められたようだ。まさかこの世界で馬に『ぐぬぬ』させられるとは……。
「可愛くないな~君たち。後で美味しいニンジンをあげようと思ってたけど保留だな」
それを聞いた途端にまた馬たちが近くに集まり、目をほそめて頭や鼻をすり寄せて来た。
「ええ~い! 甘えるな! 今更、可愛くない。どうせニンジンだけが目当てなんでしょ?」
今度はそれを聞き、前足で地面をかくようなしぐさをしだした。
「えっ? そんなことない? どうしても欲しいだって? そんなの知らないよ。今後の態度で決めるから気を付けるように、では、セレスさん、行きましょう」
「か、かしこまりました」
御者に挨拶をして冒険者の方に向かう。
「冒険者の人は良く雇うんですか?」
「……えっ! あっ! はい」
「ん? どうかしました?」
何か様子がおかしいような? トイレ?
「い、いえ、何でもございません」
え~と、なんて言うんだっけ? ……お花! お花畑……違う、え~と、お花、お花、お花摘みだ。
「セレスさん、お花摘みなら遠慮なく行って下さいね!」
それを聞いて、セレスさんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして否定した。
「違う? それなら良かった。そわそわしてたから、てっきりそうかと……でも行きたくなったらいつでも行って下さいね。馬車の移動中は行くのが難しいでしょうから」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ失礼しました」
よく考えたら、女性にトイレの話はちょっと失礼だったかな……。
「よう、嬢ちゃん! 魔術師見習いか?」
冒険者の休憩している所に近づくと、ベストみたいな革鎧を着て腰に剣を携えた青年に声をかけられた。
「馬鹿野郎、そのお嬢さんは護衛対象だ! 気安く話しかけるな」
『ゴンッ』という音と共に、少し高そうな金属の鎧を着たおじさんが後ろからあらわれた。
「痛っ! 殴る事はね~だろ~!」
青年が頭を抱えて悶えている。
「こいつは、まだガキなんで許してやって下さい」
「もうガキじゃね~し、がっ――」「――向こうにいってろ!」
また殴られた青年は頭をさすりながら、少し離れた所に移動していった。
「それで何か御用でしょうか?」
冒険者は荒くれものが多いと勝手に思い込んでいたが、この冒険者は想像と違って礼儀正しい。
「いえ、しばらくの間、護衛していただくので挨拶にきただけです。ケイ・フェネックと申します。目的地までの間ですがよろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に……この冒険者パーティーのリーダーをしているアルクと申します。依頼者のノア様には、よく護衛の依頼をしてもらっています。こちらこそよろしくお願いします」
自分の挨拶を終えると、パーティーの仲間も呼んでくれて紹介してくれた。先ほどの殴られた青年はエドという名前で、弓を持っているのがジョー、ローブを着た女性がミリスで風の魔法が使えるそうだ。四人とも次の街を拠点にして暮らしているそうなので色々聞いてみた。
「冒険者になりたいのか? 貴族はそんな事しなくていいんじゃないか? まあ、アルクのおっさんも元貴族だけどな、痛っ!」「――余計な事を喋るな!」
また殴られているエドのお陰で、意図せずアルクさんの礼儀正しさの理由を知ってしまった。何があったかは知らないが、この世界も色々大変なんだな……。その後、ギルドについてミリスさんが教えてくれたのだが、冒険者は登録すればその場ですぐなれるらしいが登録料が大銀貨一枚かかるようだ。大体、日本円で一万円くらいだから登録してもいいかもしれない。
「登録しておくと身分の証明になるし、働く時の給料が全然違うから取っておいて損はないと思うわよ。商業ギルドの事はよくわからないけど、登録料の他に試験と年会費っていうのがあって結構大変らしいよ」
試験自体も料金がかかるようだが、商業ギルドが儲ける為に必ず一回目は落とされると噂らしい。商人に対する偏見のように思えるが……。
「なるほど……もう少し話したい所ですがそろそろ戻りますね。休憩中にお邪魔してしまって、すみませんでした。これよろしかったら皆さんで食べて下さい。この後もよろしくお願いします」
カバンからレーズンパンの入った紙袋を出して、話していたミリスさんに渡す。
「私も楽しかったから問題ないわよ! これはありがたく頂くわね! 何か聞きたい事があったらまた聞きに来て、わかる事なら何でも答えてあげるわ」
「ありがとうございます。おじゃましました~」
みんなに手を振り馬車に戻る。後ろでは早速食べ始めているようで声が聞こえる。
「うまいな! これ!」「美味し~い」「うまいな、ミリス、もう一個くれよ」
あれ? もう一人いたような……。後ろを振り返ると弓の人もしっかり食べていた。ジョーだったっけ、無口な人なのかな? さっきも喋っていなかったし、人見知りなのかもしれない。
「どうかなさいましたか?」
セレスさんの言葉で我に返る。
「いえ、何でもないです。戻りましょう」
馬車に乗り込むとまたメモ帳を開き、ギルドの話を書き留めておく。それと冒険者の馬を見たのだが、鞍はあるけど足を乗せる鐙はないらしい。これもメモメモっと。
「「きゃ~~~っ!」」
女性の悲鳴がしたかと思うと急に馬車の外が騒がしくなる。
「ノア様を急いで馬車に」
大声と共に扉が勢いよく開き、ノア様が乗り込んでくる。
「どうしたんですか?」
肩で息をしていたノア様は、息を整えると騒ぎの原因を教えてくれた。
「ま、魔狼です、魔狼の群れがでました」
へ? まろう?
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