第41話 魔法の練習

「二人とも苦しいよ……」


「す、すまない」「ごめんね、お母さんうれしくてつい」


 両親は嬉しさのあまり抱きしめたが、加減が出来ていなかったのだろう。アンが小さな悲鳴を上げた。それで両親は我に返ったのか、オレの存在を思い出して地面に跪いて頭を下げた。


「この村に聖女さまがいらしてから、娘の未来に希望の光が灯りました。なんとお礼を申し上げればよいのか……感謝の気持ちしかありません」


「二人ともやめてください。感謝の気持ちはもう十分伝わっていますから……」


 まだ、話したい事があったので、座ってくれるようにお願いする。  


「「す、すみません」」


 二人が座り直すのを確認して、アンの魔法適性について話した。アンの両親は神聖魔法と聞いて涙を流して喜んでいる。それだけ子供が魔法を使えるという事は、この世界では凄い事なのだろう。


「「ありがとうございます、ありがとうございます」」


「いやいや、今回は本当に私は何もしていないですから、それよりも私が口を出す事ではないのですが、お二人は娘さんをどうしようとお考えですか?」


 そう聞くとアンの父親はしばらく考えた後、話し出した。


「突然のお話で、どうしたら良いか分からないというのが正直な気持ちです。もちろん、私たちは娘を手放したくはありません。しかし、子供の才能の芽を摘んでしまうような事も、親としてはしたくはないと思っています……しかし……」


 その後は言葉が続かず沈黙が流れる。この世界では魔法の才能を伸ばす為には、権力を持つか権力者の庇護下に入らなくてはならない。それは権力のないこの家族には、離ればなれになる事を意味している。それが分かっているから思い悩んでいるのだろう。


「う~ん……アンはどうしたい?」


 オレの質問にみんなの視線がアンに向く。


「わ、私は魔女さまみたいになりたい。魔女さまが私にしてくれたように、困っている人の病気や怪我を治せるようになりたい」


「アンがそうしたいなら私たちは応援するわ! 広い世界を見る事の出来る絶好の機会なんだから、頑張りなさい!」 


 母親の言葉に父親が反論する。


「しかし……アンはまだ子供なんだぞ」


「じゃあ、あなたは応援しないというの?」


「いや、そういう訳では……その」


 二人の口論がヒートアップしそうだったので提案をしてみる。


「お二人とも落ち着いて下さい。誰かに知られた訳ではないので、それほど結論を急がなくてもいいのかもしれません。そうですね…………私が基本的な魔力の操作と初歩の回復魔法を教えるので、上達してそれ以上の魔法を覚えたくなったら、またご家族でその時に話し合って、どうするか決めるという事でどうでしょうか?」


「願ってもいない事です。可能であれば娘にお教え下さい」


 そしてまた土下座である。こんなに頻繁にされると感覚が麻痺しそうだ。二人を起こしながら了承する。


「分かりました。それでは少し娘さんをお借りしますね。じゃあ! アン! 人がこなそうな場所に案内してくれる?」


「うん! わかった!」


 アンは元気に返事をしてオレの手を取り走り出した。




 ♦ ♦ ♦ ♦


 


「魔女さま、手のひらがポカポカしてきた気がする」


「早いな! 高校の時やってた?」


「コウコウ?」


「いや、何でもない! それが魔力だからそれを体全体に広げるように意識してみて」


「ん~~~っ! や~~」


「そ、そんなに力まなくて大丈夫だよ。……いや、やり易ければなんでもいいか……」


 今は簡単な魔力操作を教えている段階だが、意外と脳筋よりの性格だったらしい。気合で何とかしようとする。しばらくすると、まだ均等ではないものの広げられるようにはなったようだ。


「じゃあ、一旦休憩しよう! 今の感じで薄く均等に出来るように毎日練習するといいよ!」


 果実水が入ったコップを渡してあげる。


「んぐんぐ……うん、わかった」


 アンを見ていると、魔力操作だけでも思ったより疲れるものなのかもしれない。


「最後はその広げた魔力を手のひらに集めて、ヒールと心の中で唱えるんだけど……まだだよ! 焦らない。その時にどんなふうに治すか想像出来ると、より効果が上がるからそれを意識してやってみよう」


「……うん」


「そうだな……自分の足にかけてみようか」


 今まで裸足だったので、細かい傷だらけだったアンの足は初歩の回復魔法の練習に丁度いいだろう。


「ん~~~っ! ヒーーール!」


 アンの右足が淡い光に包まれる。


「…………成功かな。少しだけど小さい傷は無くなってる」


「ホント? やった~!」


 アンが喜びのあまり座っているオレに勢いよく抱き着いてきた為、後ろにひっくり返ってしまう。


「あたたた、今の感じでご両親や、自分でしばらくは練習してみるといいよ」


「うん、ありがとう。魔女さま、だ~~い好き!」


 アンの背中をポンポンしながら起き上がる。


「よし、じゃあ帰って、お父さんとお母さんに知らせてあげよう」


 良い返事と共にアンに手を引かれてまた走らされる。その後ろ姿をみながら、さっきのアンの魔法の効果について考える。ちょっと効果が低いような気もするが最初はこんなもんなのか? そういえば、ミドリンが普通の人間は魔法を使う為の触媒がないと、まともな魔法が使えないと言っていた気がする。


「魔女さま、どうしたの?」


「いや、少し考え事してただけだよ」


「そうなんだ! お母さんたち喜んでくれるかな?」


「もちろん、喜んでくれるよ。よし! どっちが早いか競争ね。ヨ~イ、ドン」


 アンの家はもうすぐなので一気に走る。すると後ろからアンの声が聞こえて来る。


「よ~いどんって何? あ~魔女さま、ずる~い! 待って~」


 ♦ ♦ ♦ ♦


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 頑張りモス。

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