第40話 アンの魔法適性
「あぶねっ!」
村への帰り道、メモ帳に目を落としたまま歩いていた為、つまずいて転びそうになり立ち止まる。
「う~ん……未成年だし本人にだけ伝えるのは、あんまり良くないよな~」
メモ帳をカバンにしまい、また歩き出す。アンが神聖魔法の適性がある事をどう伝えるかに頭を悩ませていた。最初は伝えるかどうかも悩んでいたのだが、折角の才能を埋もれさせるのはもったいないと思い、結局伝える事にした。でも、どうやって? まずは両親かな? 家族で話し合って決めてもらうのが一番いい……気がする。ノア様が迎えに来る前に話せたら話してみよう。今の時間だと畑仕事をしているかな?
この世界の人たちの価値観がわからないので、どんな結果になるかはわからないが、一般の人の考え方がわかる良い機会になるかもしれない。オレがあのくらいの年で家族と離れなくてはいけないと言われたら、大泣きしたんじゃないかな……でも留学や夢をつかむ為に親もとを離れると思えば、そこまで悪くはない気もする。まあ、それも今だから言えるだけで、アンと同じ年頃の自分だったら絶対に無理だろうな……。
♦ ♦ ♦ ♦
「魔女さま~~!」
村に着くと、どこから現れたのか子供たちがやって来た。
「丁度良かった! みんなこれあげるから履いてみて!」
カバンからサンダルを出し、子供たちに渡していく。やはりアンはみんなに悪いと思ったのか、靴は履いていなかった。
「えっ! いいの?」「かわいい~」「すげ~~!」「「魔女さま、ありがと~!」」
「履き方わかるかな? 親指と人差し指の間に紐の部分をあわせて、そうそう! あっ! エマとダンは左右が逆になってる。一応、足の形になってるからよく見るとわかるよ」
子供たちは、歩いたり走ったりして履き心地を試している。
「えへへ! かわいいね」「うん、三人でお揃いだね!」「うん、かわいいね」
女の子たちは嬉しそうに話している。男の子たちも笑顔で走り回っているので、どうやら気に入ってくれたようだ。
「そうだ、アン! ちょっと来て」
手招きすると急いでアンが駆け寄って来る。
「な~に? 魔女さま」
両親の居場所を聞くと、どうやらこの時間なら二人とも家にいるらしい。
「アンのお父さんとお母さんにお話があるんだけど案内してくれる?」
そう聞くとアンは一瞬、不安そうな顔をしたがコクリと頷いた。
「みんなもちょっと来て~」
集まって来た子供たちにサンダルの感想を聞き、軽くおしゃべりをした後、本題に入る。
「今からアンと大事なお話があるから、ちょっとだけアンの事を借りていくね」
何か言おうとしたダンの口を、ウィルが手でふさぐ。
「分かりました、アン! 俺たちはいつもの所で遊んでるから」
ウィルの言葉にアンが答える。
「うん、お話が終わったら行くね」
そこでみんなと別れてアンの家に向かう。もっと質問攻めや一緒に行くと言われるかと思っていたが、ウィルが何かを察してくれたお陰ですんなり話が進んだ。多分、アンもそうだが耳の話と思ったのかもしれない。
「アン、心配しなくても耳は完全に治ったから安心していいよ」
「えっ! じゃあ、お父さんたちに何の話をするの?」
「う~ん、先に話してもいいかな……アンは魔法が使えるようになるとしたら覚えたい?」
「――うん! 覚えたい!」
アンは即答する。
「じゃあ、魔法を覚える為には、お父さんとお母さんと離れなきゃいけなかったらどうする?」
「…………」
もの凄く頭の中で葛藤しているのだろう。アンは答えることが出来なかった。
「じゃあ、もしもアンが魔法が使える才能があるとして、貴族さまがそれを知ったらどうなると思う」
「…………連れていかれて奴隷にされる」
「えっ! 奴隷?」
自分から聞いておいて予想外の答えに驚いてしまった。まあ、あながち間違いではないのだが……。
「うん、お貴族さまに連れていかれると、奴隷にされるってみんな言ってるよ」
「流石に魔法が使えたら奴隷にはされないと思うけど……」
そこまで言って疑問が湧いてくる。果たして絶対に奴隷にされないと言い切れるのか? 食事ぐらいはさせてくれるとは思うが、強制的に連れていかれて働かされるのと奴隷に何の違いがあるのか? う~ん……。考え込んでいると、アンがさらに続ける。
「でも、魔法が使えたとしても知られると奴隷にされるから、家族以外には言わない方がいいってみんな言ってたよ」
えっ! 早速、答えが出てしまった気がする。
「なるほどね。じゃあ、これから言う事は秘密ね!」
手招きをして近くに来てもらい、耳元で周りに聞こえないようにアンの魔法適性について話す。
「えっ! えっ! えっ! 魔女さま、ホント?」
「うん! だから大事な事だからアンのご両親にも、話しておこうと思って居場所を聞いたの。どうするか家族で話し合った方がいいでしょ? 詳しい事は後で話すからとりあえず家まで向かおう」
アンは頷くとオレの手を引き、自分の家の方向に走り出した。
「えっ! 走る感じ? まあいいか!」
♦ ♦ ♦ ♦
「お父さ~ん、お母さ~ん! 魔女さまがお話があるって~」
アンは家に着くと急いで中に入って行った。すると、すぐに慌てた様子のアンの両親が現れた。
「せ、聖女さま、何かございましたか?」
「人に聞かれない方が良いので、家にいれてもらっていいですか?」
「こ、こんな汚いあばら屋ですが、よろしければ、お入り下さい」
中に入ってみると物は少ないが、汚い感じではなかったので少しホッとした。しかし、オレの指示待ちなのか全員で部屋に入って立っている状態だ。
「え、え~と、立ち話も何ですから座らせてもらっていいですか?」
「そ、そうですよね、気付かずに申し訳ありません」
椅子を進めてもらい座ると、みんな樽や箱を持ってきて座り出した。どうやら椅子が一つしかないようだ。椅子と言っても板に足が生えたものだが……。流石に飲み物までは催促することが出来なかったので話を始める。
「今日の話というのはですね。アンが魔法の適性を持っていたので、お二人にもお話しておいた方がいいと思いまして、余計なお世話かもしれませんが、来させていただきました」
「「魔法!」」
「アン、凄いじゃないか~」「よかったわね! アン」
旦那さんは笑顔で奥さんの方は涙を流して、二人は間に座っているアンを抱きしめ喜んでいる。それを邪魔したくなくて何も言わずに見守る。これが貴族や権力者の子供なら手放しで喜べるんだろうな……
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