第39話 強力すぎる杖

 手鏡で色々な角度から今の自分の顔を見てみる。そして、一部分の変身もできるのか試してみたのだが、髪の色だけを変える事も可能なようだ。




「黒髪は珍しいみたいだし、目立たない為に金髪とかにするのもいいかもな……」




 金髪を元の黒髪に戻し、次の作業に取り掛かる。レッドキャップが本当に関わっているかわからないが、ゴブリンたちの杖が無くなってしまったらしい。危ない事に首を突っ込みたくはないので、レッドキャップを見つけて取り返すとは言えなかった。その代わりと言ってはなんだが、似た性能の杖を作ってあげることにした。その為に変身魔法を教えて貰い、【秘密の部屋】に戻って来たのだ。




 まずは木のブロックとオークの魔石を使い、ゴブリンサイズに合わせた杖を作る。たしか魔力を消費して変身する杖だったな。杖に魔力を込めると変身魔法に変換されるイメージかな? ミドリンが言っていた効果をイメージしながら変身魔法を付与する。確認の為に出来上がった杖を鑑定した所、効果はイメージ通りに付与出来たようだ。レア度はエピックでミドリンにあげた腕輪と同じだった。また倒れられても困るのでこの事は黙っておこう。








 ♦ ♦ ♦ ♦








 杖を持って元の場所に戻ると、ミドリンはゴブリンたちと何やら話をしていた。




「おまたせ~! どうだった? 見つかった?」




 洞窟内をくまなく探したそうだが、やはり見つからなかったそうだ。




「そうか~! じゃあこれ、まったく同じ効果じゃないかもしれないけど、作ってみたから使って! はいっ!」




 杖をミドリンに手渡すと、困惑しているようだが受け取ってくれた。




「ケイ様、この杖は一体?」




「え~と、ちょっと貸してみて! ホイッ! こんな感じ」




 杖を受け取るとまた自分の髪を金髪にしてみる。ゴブリンたちの反応は無視して、さらに杖の効果をみせる。




「髪の色を変えるだけじゃなくて、ちゃんと変身もできるよ! ホイッ!」




 今度はミドリンを人間に変身させてみたのだが、ゴブリンたちからどよめきが起きる。




「なっ! 他人を変身させる杖とは……」




 人間になった自分の手を見て、ミドリンは信じられないという顔をしている。




「いや、自分も変身できるよ! ほら!」




 今度は自分をゴブリンにしてみると、それをみてゴブリンたちは黙ってしまった。




「……えっと、何かまずかった?」




「ケイ様、まずいと言いますか……強力すぎます。今まで持っていた擬態の杖は自分しか変身させることはできませんでした。それに試してみたのですが変身させられた私は、自分では元の姿に戻れないようです」




 おっと、他人を強制的に変身させる事が出来るってこと? 使い方によっては、確かにやばいね。




「問題が起きそうな予感しかしないね……ちょっと作り直すね」




 自分とミドリンの姿を元に戻すと付与を上書きする。鑑定してみるとレア度は下がったが、多分うまくいったと思う。ゴブリンたちに試しに使って貰う。




「ケイ様、本当によろしいのですか?」




「変身魔法を教えて貰えたし、それに魔導具を作る練習になったから、こっちがお礼を言わないとだよ! ありがとね!」




「ケイ様、この御恩はいつか必ずお返し致します」




「気にしなくていいのに、う~ん……じゃあ、困った時はよろしくね」




 その後もミドリンと話をしていると、ゴブリンたちが杖を試した結果を報告に来てくれた。話を聞いた感じだと他人に効果が無くなり、危険度が落ちたのでもう大丈夫だろう。




「大丈夫そうだね! それじゃあ、この後用事があるからそろそろ行くね! 近くに来たらまた遊びに来るよ! みんなも元気で! またね~」




 みんなが見送ってくれる中、手を振り村に向かって歩き出した。








 ♦ ♦ ♦ ♦








 村に帰る途中でお腹が減ったので、【秘密の部屋】に入り軽い食事をとる。そういえば、アンが一人だけ靴を履くのは気まずいだろうから、子供たちみんなにサンダルでもあげようかと思っていたんだった。パンをくわえたまま立ち上がり反物と木のブロックを持ってきて、アンの分も含めて子供たちのサンダルを作る。木で出来た底に布の鼻緒をつけた簡単なものだ。一応、女の子は花柄の鼻緒にして、男の子は唐草模様にしておいた。




 何となく作ったけど、裸足の人もいるぐらいだし案外サンダルって売れるかも! 値段も靴よりはかなり安くできるはず。というか最初は何をメインに売るかだよな~。店もないわけだし、露店とか屋台? うは~っ! 何か楽しくなってきた。やっぱり何かに書いて計画したい。さっきゴブリンに貰った素材で、鉛筆が作れたはずだから作ってみよう。




 早速、鉛筆を作り、昨日作っておいたノートに試し書きをしてみる。




「サンダルを売りだすっと! 丁度いい濃さかな。とりあえずこの一冊は、気になった事を書くノートにしよう」




 思いつく限り書き連ねていき、それを眺める。え~と、洗濯用のタライと洗濯板を作るのと、姿見を作るは今すぐできるかな。あと瓶とかのガラス製品も作れるか。全てを作り、姿見を壁に取り付ける。洗濯と調味料や酒の瓶への移し替えは後でいいかな。ノートを見ながら終わった項目にチェックを入れていく。今できる事はこれぐらいのようだ。




「よし、行くか!」




 残った果実水を一気に飲み干し出発準備をする。姿見で身なりを整えて、扉を開く。外は、とてもいい天気だった。

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