第37話 トラブルの予感

 森の一本道をひたすら歩いて湖跡に到着すると、そこにはすでにゴブリンたちが集まって来ていた。よく見るとみんな首にバンダナを巻いていたので、少しほっこりした。




「おはよう! ごめんね、待たせちゃった?」


 


 みんなの所に駆け寄って話しかけると、ゴブリンたちは周りに集まって跪いた。その中からミドリンが前に歩み出る。




「昨日はお恥ずかしい所をお見せして、申し訳ありませんでした」


 


「大丈夫だった? 急に倒れたからびっくりしちゃったよ」




 どうやらあの後すぐに目が覚めたそうだが、後悔の念と謝罪をしたい気持ちで、居ても立ってもいられなかったそうだ。それでかなり早くから待っていたらしい。




「こちらがケイ様に頼まれていたものです。お確かめ下さい」




 ゴブリンたちがリアカーを引いて何やら運んできた。




「えっ! 全部見つけて来たの? 何か凄くいっぱい積んであるんだけど! 大変だったでしょ? ありがとう!」




 リアカーの荷物を鑑定しながら見ていくと、お願いしていた物が揃っていた。おかげで鏡がつくれそうだ。




「ステンレス? アルミの合金もある。凄いね! これが種族スキルで作れるんだ。これも貰っていいの?」




 ゴブリンたちは褒められて誇らしそうだ。合金や集めた素材は感謝の気持ちなので受け取って欲しいと言われた。汚名返上の為に仲間に無理をさせて、集めたり作らせたりしていなけばいいのだけれど……。




「そうだ! 約束のつるはしを作るね! 鋼はできてる?」




 そう言うと、鋼を持ったゴブリンが渡してくれた。装飾が苦手なのでその見本が欲しいという事だったので、みんなの前で装飾のされた三本のつるはしを作り上げる。一度球体になってからつるはしになる過程を見て、ゴブリンたちは感嘆の声が上げた。あれ? 昨日見せなかったっけ? 




「こんな感じでいいかな? アカンサスっていう神聖な植物をモチーフにしたんだけど……」




 昔、美術で習ったローマの神殿とか、有名な様式の家具にも使われている模様にしてみた。




「ああ~! ケイ様! 何て美しいのでしょう!」「なんて細かい装飾なんだ……」「ギギィ~~!」




 ゴブリンたちはどうやら気に入ってくれたようだが、こちらが貰いすぎな気がする。




「ちょっと、待ってて! すぐ戻るから! この鉱石はありがたくいただくね。ついでにしまってきちゃう」




「ケイ様、荷物は私どもがお運び致します」




「見られたくない魔法を使うから、待っててもらいたいんだけど……」




 そう言うとミドリンも納得してくれたので、リアカーを少し離れた場所まで引いて行った。見えないのを確認して【秘密の部屋】を出して鉱石を運び込む。鉱石類は土魔法で操作できるので、簡単に中二階に運ぶことが出来た。鉱石のお返しの分を適当に見繕ってリアカーに積んで外に出る。そういえば、言わなきゃいけない事があったな。忘れないようにしよう。








 ♦ ♦ ♦ ♦








 戻るとみんなで集まって正座をしている。つるはしを見て話し合っているようだ。




「お待たせ~! みんなってお酒は飲むの? 良かったらこれみんなで飲んで! あと塩も肉を焼く時にでも使って!」




 リアカーに積んである日本酒が入った樽と塩の入った袋を指さす。




「ありがとうございます。しかし、我々の命を救っていただ――」




「――あ~~友達でしょ! もうそういうのいいから受け取ってよ、お礼もいいから!」




 また長いやり取りが始まりそうだったので、友達の一言で終わらせる。




「それより言っておかないといけない事があるんだけど、オークを討伐した事を領主に伝えたから、もしかしたら兵士とか冒険者が確認で、この辺りに来るかもしれないから気を付けてね。見付からない方がいいんだよね?」




「お気遣いありがとうございます。今までも何度かそういった事はあったので、何とかなると思います」




 それはそうか、オレよりこの世界長いもんね。でも一応、言っておかないとスッキリしなかったし言えてよかった。


  


「それと、あと何日かでここを離れる予定なんだけど、離れる前に魔法について教えて貰えないかな?」




「それは構いませんが、ケイ様の方がお詳しいかと思いますが……」




 被害妄想かもしれないが、魔法使いのくせに何を言ってるんだと思っていそう。 




「ま、魔術の深淵を求めるのが私の目標なので、え~~と、色々な人の視点から見た魔法やコツが知りたいので、どんなことでもいいんだけど」


 


 無理やり考えたが、『魔法初心者です』と正直に言った方が良かったかも知れない。尊敬され始めているのに、失望されるのを恐れて見栄を張ってしまった……。




「私は感動致しました。私たちのような弱者からも学びを得ようとするそのお考えが、あのような強力な魔法を生み出したのですね」




 疑いもしない素直な反応に後ろめたい気持ちになる。ハードルが上がりすぎて自分の首を絞めてもいるのだが……。




「どのような事からお答えすればよろしいでしょうか?」




「え~と、魔法の乗り物とか移動の手段。あと変身魔法について教えて貰ってもいいかな?」




 ミドリンに『知っているとは思いますが』と何度も言われたが、全く知らない話ばかりだった。試しに箒や絨毯の話をしてみたが聞いた事もないそうだ。とりあえず詳しくは分からなかったが、ゴーレムのような物に乗り移動する魔術師がいる事や、魔法陣のような地面に魔法的なものを描いて転送する方法がある事が分かった。そして今、変身魔法について教える為の道具を、取りに行ってくれている。




 ミドリンたちと話していると、慌てて走って来るゴブリンの叫ぶ声が聞こえた。


 


「族長! 大変です! 擬態の杖が無くなっています」




 マズいです。トラブルの予感! 午後から予定があるんですが……。


 ♦ ♦ ♦ ♦


今回は36話と37話の二話を投稿しました。

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