第36話 石鹸の香り

 「ふわ~~っ! そうだった……」




 目が覚めて伸びをしながら異世界に来たことを思い出す。どうやら昨日は色々作った後、ソファで寝てしまったようだ。しばらくボーッとした後、重曹で作ったお風呂セットを持って汗を流しに向かう。




「洗濯機は無いんだよな……」




 脱いだ服を壁のハンガーラックにかけて浄化する。確かに綺麗にはなるのだが、洗わないと気持ち的に綺麗になった気がしないんだよね。せめて下着ぐらい洗うか……。下着とTシャツをまとめてカゴに入れて、洗濯板とタライを頭の中の作るリストにメモっておく。その後はお風呂セットを早速試してみることにする。




「ヘチマっぽいヤツで作ったスポンジもいい感じだし、この石鹸の匂いもオレは好きかも」




 昨日の夜に作った石鹸は思いのほかいい匂いに出来ていた。シャンプーの方は少し髪がキシキシしてしまっているので改良が必要だろう。試しに髪の毛にヒールを掛けてみるとキシキシ感がなくなった。




「おおっ! トリートメント要らずじゃん! でも売る為にはシャンプーの改良はいるな……」




 シャワーで泡を流しきり湯船につかる。




「これだけあれば、この世界でも十分不自由なく暮らせるんじゃないかな?」




 階級社会がなければもっといいのだが……。これからの生活に思いを巡らせながら、歯磨き粉も試しに使ってみると、ミントを入れたお陰で口の中がスッキリした。




「石鹸は売れそうだけど、歯磨き粉とシャンプーはある程度お金持ちじゃないと買わないだろうな……」




 一応この村の人も水浴びや歯磨きしているようだが、水浴びは毎日ではないし、もちろん歯ブラシなんて物はないので、木の枝の先を割いた物で代用しているらしい。それを考えると、お金をかけてまでやるかというと疑問である。まあ、この村を基準に商売を考えるのは間違いだとは思うが……。そこで考えるのを止めて、大きな湯船に仰向けになりお湯に身を任せた。








 ♦ ♦ ♦ ♦








「ふ~~っ! そろそろ行く準備をするか~!」




 お風呂から上がり、昨日作った新しいコスプレ……新しい服に着替える。歩きづらかったので、ローブは丈を短くして膝よりちょっと長いくらいにしておいた。もう、ほぼワンピースである。色は何て言ったらいいんだろう。濃い茶色? 生地は粗目の薄いタオルケットみたいな感じにしておいた。ちょっと生地が薄すぎたので中に色違いの薄い茶色のローブを着てみると、いい具合に裾から色違いのローブが出ていて、おしゃれな重ね着にみえる……気がする。下はジーンズはやめてタイツを履き、同系色のマントを上から着用する。着ぶくれしてるけど、まあいいかな。




「鏡がやっぱり欲しいな。ミドリンたちが材料を見つけてくれてたらいいんだけど」 




 今の顔は鍋の水に映してみたけど全体を見たい! やはり姿見が欲しい。




「身だしなみ、一応オッケー! よし、行くか!」




 見れないものは仕方ないので出発することにする。教会の部屋に出ると二人の声が聞こえてきた。もう起きているようなので二人のもとに挨拶に向かう。




「おはようございます。 少し出かけてきますね! 昼前には戻れると思います」




「「ケイ様、おはようございます」」「――あら、この香りは?」




 シスターの言葉に自分の腕のにおいを嗅ぐ。嗅ぎなれないにおいは嫌な人もいるからね。




「すみません。そんなに匂います?」




「いえ、いい香りだったものでつい!」




 嫌がられた訳では無かったのでホッとした。カバンから石鹸を出して見せてあげる。高価な物らしく手に取ろうとはしなかった。石鹸ぐらいは売れると思ったが無理かも……。




「よかったら使ってみます? これなら手や体だけでなく、服も洗えますよ。この匂いがしちゃいますけど……」 




 遠慮しているけど明らかに欲しそうなんだよね……。すぐ作れるし一杯持っている事を伝えると意を決して『一回だけお借りしますね』と言ってきた。石鹸の貸し借りは私的には相当身近で仲良くないとちょっと無理です。




「返さなくていいですよ! 使い切っちゃって下さい。その内、安く販売しようと考えているので、モニター…………え~と、使い心地を試して感想を聞かせてもらえたら、私の商店としても万々歳ですので使ってみて下さい。もちろん、不満点があったら言って頂いて構わないです。あと女性の方は、髪には使わない方がいいかもしれません。汚れを落とすにはいいんですが、髪用ではないので」




 髪に艶が出る商品を別に作っている事を伝えて、石鹸をシスターに渡す。シスターは恐縮していたが結局受け取ってくれた。




「では、行ってきます!」




 二人が見送ってくれる中、湖跡に向かう。結局、神父さまや家令のノア様たちには重曹の事は伝えていない。そもそも、説明するのが面倒臭いしゴブリンが見つかると教会に伝わり、討伐隊が派遣されるかもしれない。色々面倒臭いのだ。石鹸の需要が増えれば価値は計り知れないのだが……。








 ♦ ♦ ♦ ♦








 今日は道沿いの花を石鹸の香りづけ用に、適当に摘みながら向かっている。昨日より探索魔法に引っ掛かる動物が増えた気がする。オークを倒した影響か偶々なのか? う~ん? 考えても答えは出ない。喉が渇いたのでカバンから果実水を取り出す。




「ふ~~~っ! 歩くにはちょっと遠いな! 乗り物が欲しいけど、この世界の乗り物って、多分、馬だよな~」 




 馬は乗った事がないし乗れる気もしない。魔法がある世界だから何かあるだろう。箒とか絨毯とか。でもあったとしたら何魔法になるんだろう? 向こうについたらミドリンに聞いてみよう。


  ♦ ♦ ♦ ♦


 フォロー、応援、レビューありがとうございます。

それと始めてレビューコメントを頂きました。

 

 正直、楽しんでもらえているかは実感出来ずにいましたが、

レビューコメントを頂いて、続ける元気をもらえました。

ありがとうございます。頑張りますです。

お礼の気持ちを込めて、今回は二話投稿です。



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