第12回 決して覗かないで下さい。

 代官たちが帰ってしばらく経つと、辺りはすっかり真っ暗になった。シスターにロウソクを渡されていたが、火を消して【秘密の部屋】の中に入る。




 早速、明日の仕込みに取り掛かる。狼の肉は全部干し肉にすることにして、料理スキルの浸漬を試してみる。塩水に浸けるとミルミル浸透して行く。しかも丁度いい塩加減も、料理スキルのおかげで分かる。これは塩抜きがいらないから、一手間省けていいかもしれない。そのまま、乾燥、熟成、保存で完成させる。味見をするのに焼きたい所だが、やはり密閉空間なので火を使うのは危険な気がしたので、そのまま少し切って食べてみる。大丈夫! おいしい!




 でも塩味ばっかりだと飽きるから調味料が欲しい。やっぱり醤油は外せないとして、今の材料だとお酢と味噌あたりかな? 料理スキルの抽出と発酵で多分作れるだろう。火が使えないから全部明日になっちゃうな……。




「キッチン、風呂、トイレがないと部屋って言えないですよ。御使い様!」




 御使い様の像に話しかける。とりあえず火を使わないで作れる物を考えてみる。瓶がないとキツいな。仕方がないので小さめの樽を作り、料理スキルの抽出を使い、大豆油、オリーブオイル、果物の果汁を樽に溜める。その後も、スキルの発酵を駆使してレーズンで天然酵母を作り、パン生地も作っておく。調味料を作る時に必要な圧搾用の手ぬぐいをいくつか作った所で、今の時点で出来る事がなくなった。教会の部屋に戻ろうかとも考えたが、暗い部屋では寝れないのでこのまま【秘密の部屋】で寝ることにする。




 ……長い一日だった。






 ♦ ♦ ♦ ♦






「あたたたっ!」




 翌朝、体の痛みで目が覚める。やはり布団も早く欲しいと思いながら体を伸ばす。すると、なにやら違和感をおぼえる。




「おはようございます」




 御使い様の像と目が合い思わず挨拶する。しかし違和感の正体はこれじゃない。部屋を見回しハッとする。寝る前にはなかったドアが二つ増えていた。




「まさか!」




 急いでに近くのドアを開けると、なんとキッチンだった。部屋の奥にはドーム型の窯があり、カウンター、収納、大きな冷蔵庫、コンロ、流し台もある。レバーを倒してみると水もお湯も出てくる。この水は一体どこから来てどこに流れていくのか? 謎システムである。よく見ると宝石のような物が色んな所にハメてあり、鑑定してみると魔石だった。冷蔵庫には氷の魔石、コンロには火の魔石といった感じで用途にあった魔石がハメられていた。




 やった! これで料理が出来る。キッチンから出て御使い様の像を持ち、何度もお礼を言う。像を持ったまま、もう一つのドアを確認に行く。予想通りトイレとお風呂だった。




「昨日は生意気言ってすみませんでした。ありがとうございます」




 そう言って御使い様の像を抱きしめる。トイレの水も謎空間に流れて行ってくれるらしい。トイレットペーパーは木で作れるので、問題ないだろう。




 これはあれだ! 神棚ぐらい作らないと罰が当たる。急いで木のブロックを持ってきたが、ふと考える。上に作ると管理が大変で色々疎かにしてしまうのでは……。結局、聖堂にありそうな祭壇を作り上げた。御使い様をそこに飾り手を合わせる。『調子のいい奴じゃ』と聞こえた気がした。






 ♦ ♦ ♦ ♦






 一旦、教会の部屋に戻ると、ちょうど日の出の時間だった。流石にまだ部屋に誰も来ないだろうから、早速、料理をしてみよう! 【秘密の部屋】に戻り新しいキッチンを見て回る。収納を開けると調理器具も入っていた。マジかっ! パンを焼くために窯に火を入れてみる。どうやら薪ではなく、魔石の魔力で料理をする仕組みらしい。それに火力の調節もできるようだ。鑑定では魔石の魔力が減っていっているので、補充か交換が必要になるのだろう。 




 米や大豆を蒸し、小麦を炒った後、料理スキルをフルに使い醤油、味噌、酢、日本酒、味醂、三種類の麹、豆腐、油揚げ、パンなど作れそうなものをバンバン作る。抽出が中々優れものだな。種麴も選んで抽出できるから発酵食品が何でもおいしく作れそう。




 出来上がった油揚げを祭壇にお供えする。




「色々ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」




 手を合わせて祈る。顔を上げるとすでに油揚げはなかった。




「はやっ」




 まあ、近くで見守ってくれている気がするから嬉しいけどね。追加で何枚かお供えしておく。




 ふ~っ! 大分時間が経っちゃったな。そろそろ教会の部屋に戻るか!






 ♦ ♦ ♦ ♦






 教会の部屋に戻ると何やら騒がしかった。




「「ケイ様~! ケイ様~!」」




「戻られてしまったのか……」




「えっ! どこにですか?」




 部屋の外で声が聞こえる。マズい! 探されてる? 急いで部屋の外に出る。




「どうしました?」




 声を掛けると二人が駆け寄って来る。いなくなっていたので心配していたと言われたので、寝相が悪くて起きたらベッドから落ちていたと笑って誤魔化す。シスターはそんなハズは……と首をひねっていたが、神父さまは、なるほど! それで入口から見ていないと勘違いしたのだろうと納得してくれた。ともあれ心配かけたことを謝罪すると、何もなければそれで構わないと許してくれた。




 お詫びに朝ごはんを作りたいと伝えると、最初は遠慮していたが私の故郷の料理で、肉を使わないようにすると言うと二人とも興味を持ったのか、作らせてもらえることになった。しかし、教会の厨房だと時間がかかるので、場所だけ借りて厨房に【秘密の部屋】を出して作る事にする。




「我が家の秘伝なので人に見せることが出来ません。料理が終わるまで決して覗かないでください」




 自分で言っていて、鶴の恩返しかっ! とツッコみたくなったが、約束してもらい厨房に入る。




 【秘密の部屋】を出し鍋だけ借りて中に入る。土鍋でお米を炊き、その間に借りてきた鍋で具沢山な味噌汁を作り、胡瓜とカブの漬物を作る。一汁一菜でいいよね! 贅沢は駄目そうだし。その後は、木でお椀、箸、小皿、フォーク、スプーン、トレーを二人の名前入りで作っておき、一応フェネック商会のロゴも入れておく。




 後はご飯が炊けるのを待つだけ、気に入ってくれるといいのだけど……。

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