第13回 異文化コミュニケーション
ご飯が炊けたので待ってる間に準備しておいたもので、もう一手間かけて料理を完成させる。それらをトレーにのせて、朝食の為に用意したものと一緒に教会の厨房に運び出す。忘れ物がないか確認して二人を探しに行くと、何人かの村人が神父様たちに頭を下げながら教会から出て行く所だった。全員がいなくなったのを見計らって声を掛ける。
「あの~、いま平気ですか? 朝食が出来ましたがどうしましょう?」
「ちょうど我々も朝のミサが終わった所です。みんなで頂きましょう」
何処に運ぶか聞くと、厨房に入って大丈夫なら手伝うと言うのでお願いすることにした。
「じゃあ、ご自分の名前が入ったトレーがあるので、それをお持ちください。あっ! コップ作るの忘れた! コップはいつも使ってる物でお願いします」
トレーが通じていなかったので個人用のお盆ですかね? と答えておいた。厨房に着くとシスターが驚いて声を出す。
「火を使わないで温かい料理を? それともあの短時間で片付けまで終わられたのですか?」
何も使った形跡のない囲炉裏や厨房の状態をみて思ったのだろう。時間も掛けすぎたかと思ったが逆に早すぎたらしい。適当に誤魔化そう。
「火は使わせてもらいましたよ! 片付けは昔から得意なんですよ! あははは~! あっ! 鍋をお借りしました。この世界……この地域の方々のお口に合えば良いのですが……」
何か凄い目で神父さまがこっちを見た気がしたが、普通にいい香りで美味しそうと言っていたので気のせいか? 二人のお椀に味噌汁をよそい、自分の分を運んでもらう。
「あっ! 私の名前が!」
いやいや! シスターさっき言ったじゃん! 二人に続いて自分のトレーを運んだ後、パン、水差しを厨房に取りに行く。戻ってテーブルにそれらを置いた後、全員のコップに飲み物を注ぎ、すべて運んだことを二人に伝える。
「これで全部です。冷めないうちに頂きましょう」
それに神父さまも答える。
「それでは、頂きましょう」
「いただ――」「「あなたのいつくしみに感謝をして、この食事をいただきます。ここに用意された物を祝福し、わたしたち――――」」
オレのいただきますは、神父さまとシスターの長い食前の祈りにかき消された。もの凄く気まずいが、二人とも目を閉じて祈っているので、なかったことにして自分も目を閉じて祈ることにする。祈りの言葉が終わり目を開けると、二人とも食べ方が分からず戸惑っているのが見て取れた。そこで神父さまにお願いする。
「私の国では、みんなで楽しくお喋りをしながら食べる習慣があるのですが、折角お会いできた皆さんの事も知りたいですし、滞在期間中は食事中の会話をお許し頂けませんでしょうか?」
シスターは驚いた顔をしていたが、神父さまはすんなり了承してくれた。
「では、料理の説明をしますね。まずスープは大豆で作った味噌という調味料を主に使って作りました。それでこの二本の棒が箸と言って、こちらの国で使っているフォークのようなものです」
「あのフォークというのは?」
「えっ?」
なんと、二人ともフォークを知らなかった。普段はスプーンか手づかみで食べているそうだ。このままでは箸とフォークの説明で終わりそうなので、スプーンで食べてもらうことにする。二人は恐る恐るスープをすくって口に運ぶ。
「おお、これはうまい! この白い物は不思議な食感ですな」
「神父さま、その白い物が豆腐で、黄色い方は油揚げといいまして、それらも味噌と同じで両方とも大豆から出来ています」
神父さまは関心し頷きながら味わっている。気になってシスターの方を見ると、美味しそうに食べていたのでホッと胸をなでおろし料理の説明を続ける。
「それで、そちらも私の国の料理で焼きおにぎりといいます。上にのってるいるものはネギ味噌といいまして、名前の通り味噌と刻んだネギなどを合わせたものです。おにぎりはこのように手づかみでお食べ下さい。そして小皿は野菜の塩漬けですね。パンもあるのでよろしければどうぞ」
ジェスチャーを交えながら説明を終えると、おにぎりを食べていた神父さまが突然祈り出した。何事かと思ったら、うますぎて神に感謝していたらしい。お米をどうやら気に入ってくれたようだ。興奮した神父さまが尋ねてくる。
「ケイ様! この白い粒は一体何なんでしょう!」
お米だと伝えると、シスターが大きな声を上げた。
「あの香辛料の米ですか?」
えっ? そうなの? 香辛料? 現物見ないと一緒か分からないけど。とりあえず同じかは分からないが、材料名は米だと教えておいた。そのあとは自分も食べながら、お箸とフォークの使い方を実演してみせて教えてあげた。
「なるほど、ハシという物は難しいですが、フォークという物は使いやすいですな! またこの野菜の塩漬けがうまい!」
神父さまが漬物をフォークで突き刺し頷いている。シスターも興奮しながら喋り出す。
「私はこんなに柔らかいパンを食べたのは初めてです。それにこのスープにもよく合います」
えっ? パンと味噌汁が合うだと……。偶に好きな人いるけど、オレはまず一緒に食べようと思ったことがない。と言うかそもそも味噌汁がそんなに好きじゃない。肉を食べない彼女の為に作ったから、喜んでくれたならいいんだけど。
「わっ! 冷たい!」
シスターの声に何事かと思ったら、今度はコップの中身に驚いたようだ。
「あっ! すみません! 言ってませんでしたね。気温が高かったので、冷たい方がいいかと思って、水差しに氷を入れておきました」
それを聞いて神父さまも飲んでみるようだ。
「ほう! 果実水ですな、これは爽やかで飲みやすい!」
シスターが首をかしげ呟く。
「氷……。 一体どこで……」
流石に冷凍庫ですとは言えないので魔法の道具ですと伝える。ついでに水は浄化してあるから安心して下さいとも言っておいた。驚いてはいたが魔導具があれば可能ですねと納得してくれた。なるほど、この世界では魔導具って言うのか。
意外にもこの二人は味噌をすんなり受け入れてくれた。そもそも普段はロクな味付けをしていないようだから、なんでも美味しく思うのかもしれないけど……。しかしフォークを知らないとは、カルチャーショックだわ! 異文化コミュニケーションは結構大変そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます