第8話 イメージは焼き鳥の屋台

 神父さまとシスターに凄い勢いで勧められたので、商人の来る日まで教会にお世話になる事になった。一度部屋に案内してくれるらしいので、荷物を置くことにする。アンもついて来ようとしたので、すぐ戻ってくるから待つように伝えると、先程とは違いすんなり頷いて子供たちの輪に戻っていった。




 部屋に案内されると、ベッドと机と椅子があるだけの質素な部屋だが結構広い。貴族などの身分の高い人用らしい。普通の部屋で構わないと言っても、シスターリリーは頑として譲らなかったので、この部屋に泊めて貰うことにした。




 荷物を整理すると伝え先に戻ってもらい、帽子とマントは脱いで机の上に置き、杖は立て掛けておくことにする。シスターが行ったのを確認すると、【秘密の部屋】を出した。部屋の中に入り塩漬けにしておいた鹿肉を確認する。よく考えたら料理のスキルで時間をかけなくてもできたな。確か浸漬ってあったし、次の機会があったら使ってみよう。




 その鹿肉を水魔法で少し洗い塩抜きした後、適当な大きさにナイフで切り分け、料理スキルの乾燥、熟成、保存を使う。あっという間に何枚もの干し肉の出来上がりである。余った分は後でまた干し肉にしよう。他にも試したい料理スキルがあるが、材料がないのでやはり物々交換をしてもらうのがいいだろう。売れるなら肉を売って、そのお金で買うのでもいいが。そう考えながら木で作った布で、干し肉を包みカバンに入れる。




 鹿の塩漬けしていない部分もまだまだあるし、カバンの中にもまだ残っている。狼の肉は食べたくないので早めに処分したい。神父さまに行商人はどうやって商売しているか聞かなきゃな。狼の肉をカバンに入るだけ入れて、木のブロックを数個持って外に出る。さて子供たちに手伝ってくれたご褒美をあげよう。




 神父さまたちのいる部屋に戻ると、子供たちが『それなーに?』と群がってきたので、木のブロックを渡してテーブルに持って行ってもらう。




「神父さま、行商人の方たちはどのように商売をしているのでしょうか?」




 どうやら角笛を吹くとそれが合図になり、教会の前の広場に行商人に用がある人が集まってくるそうだ。今回は特別に教会の鐘を鳴らして集めてくれるらしい。そこでひらめく。




「広場で火は使っても平気ですか?」




 そう聞いた所、何をするか聞かれたので屋台を開きたいと告げた。過去にはいないが禁止されてはいないそうなので、火の後始末だけちゃんとすれば大丈夫だそうだ。そう言うと神父さまとシスターは、鐘を鳴らしに行ってくれた。




 急いで準備に取り掛かり、子供たちに木のブロックを持ってきてもらう。その間に土魔法で石を集め、木炭を入れて焼く為の横長の箱を作る。奥行きは串がおけるサイズで、イメージは焼き鳥の屋台である。




「魔女さま~! 持ってきたよ!」




「ありがとう! そこに置いてくれる?」




 雰囲気作りでムニャムニャ適当に唱えテーブルを作る。ブロックがいくつか混ざり合い、球体になってからテーブルになるのを見てみんなが叫ぶ!




「きゃーーっ!」「すげぇ~!」「魔法だ~!」




 みんなが尊敬のまなざしで見てくるのを尻目に、すました顔で準備を進めていく。先ほど作った石の箱に木炭をいれて魔法で火をつける。また、みんなのいい反応が返ってくる。気持ち良くなりながら干し肉を一口大に切り、木で作った串に刺していく。




 箱のサイズはちょうど良く串が落ちずに収まったので、刺し終わった串から木炭の上に並べていく。その時、教会の鐘が鳴り響く。




――ガゴーン! ガゴーン! ガゴーン!




 想像と違ったが、鳴らしてくれたようだ。人が来る前に商品を並べておこう。鹿の肉、狼の肉、干し肉をテーブルの上に並べる。後は量によって切り分けていけば良いだろう。料理スキルのおかげか、ひっくり返すタイミングが絶妙である。いい匂いが辺りに広がる。




 「いい匂い」「いいな~」「美味しいのかな?」




 『食べたことないから分からない』とか、悲しい会話が聞こえてくる。




「これはみんなの為に、焼いてるから待っててね。もう少しで焼けるから!」




 「「「「「「やった~!」」」」」」




 『初めて肉が食べれる~』とか聞こえる。やめてくれ泣くぞ!




「ちょっと待って! みんな手を見せて! ――うわ! 汚いな!」




 全員に手を出させて浄化をかけて、綺麗になったのを確認する。




「汚い手で食べるとお腹をこわすから、出来るだけきれいな手で食べるんだよ!」




 そう言うと子供たちに一串ずつ渡していく。




「熱いから気を付けて!」




 そんな言葉は気にせずに、一斉に子供たちが肉にかぶりつく!


 


「ハフハフ! おいひ~」「ハフハフ! うんめ~!」「ハフハフ……」




 反応は様々だが好評のようだ。みんな夢中で食べている。そこに神父さまたちが帰ってきた。




「みんな、ちゃんと噛んで食べるんだよ! 神父さまたちも味見に一本いかがですか?」




 シスターは食べないそうなので神父さまにだけ渡す。




「これは、なんと! こんな美味しい肉は初めてです! それに柔らかい! これなら年寄りたちも食べやすそうですな!」




 急にテンションが上がった神父さまに驚いたが、干し肉の方が売れるのかな? 加工の手間もあるし、塩も安くはないだろうから……ん~値段によるか。でもこれって、オレが凄いんじゃなくて御使い様に頂いた塩が凄いんじゃないか?




 「おおっ! いい匂いだな~! 神父さま! 鐘が鳴りましたが何かありましたか?」




 その声に振り返ると、村の人たちがチラホラ集まって来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る