第5話 初めての村
部屋を片付け終わり、いよいよ帝国に向かって出発する。しばらく森を進んでいると整備はされていないが、人の手が入っている道に辿り着いた。確か東と言っていたが果たしてどっちが東なのか……。そういえば村の名前も聞いてないじゃん! じゃあ! 右! やけくそ気味に勘で進む。それにしても道の安心感は凄いな。やっと光り輝く出口が見えてきた気がする。
さっき作った魔法使い風の格好をして歩いているが、想像以上に文明が進んでいて村に着いた途端に大爆笑されるとかはないよね? この世界での魔法使いの地位がどの位かだよな……。中世では魔女狩りとか男もされていたみたいだし、この格好は即アウトでしょ! はい! 魔女~って言われて結局認めるまで拷問らしいからね。なら笑われた方がましか……。
でも流石に魔法がある世界で魔女狩りはないか。普通の格好も作ればよかったな。もしくは神官とか? いや、それこそ偽神官~! はい拷問~ってなるよ! こえ~~この世界すぐ拷問だよ……。あれ? 人に会いたくなくなってきた。一瞬本気で引き返そうかと思ったが、あくまで想像だしとネガティブな考えを追い払い再び歩みを進める。
やはり何をして生活をしていくかだよな……。商売が無難だろうな。ブランドを立ち上げて幅広く、レストラン、洋服、家具、武器、防具とか扱うとかもいいな。あっ! 御使い様のシルエットをブランドロゴにして、名前をフェネック商会とかでいいんじゃないか? 本名を使っちゃダメみたいだし、オレの名前もケイ・フェネックとか……。
しばらく歩き森を抜けると川があり、手すりもない丸太で作った橋がかけられていた。そんな橋も川がまあまあ深いからか、意外とちゃんとしてる。そして橋の先には川と平行に整備された道が続いていた。
「あっ! 煙だ! 家もある」
道の先に目をやると村らしい集落から、ゆるやかに煙が立ち昇っているのが見えた。それを見つけた瞬間、思わず杖を持っていた手をローブで拭う。
「緊張してきた……。手汗がヤバい!」
木陰に隠れて部屋を出し、用意しておいた物を一応浄化してからカバンに入れる。――売れるといいな。服装を整え外に出て、そのまま進むと村の構造が見えてきた。道の両側に民家(?)が立ち並び、少し先に大きな教会らしき建物がみえた。まずはお店を探そう。明確に線はないがここから村であろう場所には、門番らしき人の姿は見当たらない。
「入っていいんだよね? 失礼しますよ~」
誰かいないか周りを見ながら進んでいると、家と家の間から子供たちが走りながら現れる。しかし、オレを見た瞬間、笑い声が止み全員が固まってしまう。あっ! なんかヤバい? 慌てて声をかける。
「こ、こんにちは~! お店の場――」
「「「――魔女さまだ~~!」」」
ワァーっと子供たちが群がってきて質問攻めにされる。答えようとしても、すぐ他の子供が話しかけてくるので、答えている暇がないのだが……。でも、これは歓迎されているのでは……? まだ大人にあっていないので何とも言えない所ではあるが……。
「お前たち、何やってんだ! 牛の世話は終わったのか?」
そこにリーダーらしき少年が現れる。十五、六歳ってところか? オレの事に気付いた瞬間、子供たちを引き剝がし跪いた後、震えた声で謝罪をしてくる。
「――も、申し訳ございません。貴族様への失礼の数々どうか、どうかお許しください」
その後は子供たちまで土下座させようとするし、子供たちも泣き出すしでその場は地獄絵図とかした。
「――止めて下さい。貴族でもなければ、魔女でもないですから」
「し、失礼いたしました。 魔術師さま! 代官の息子のロイと申します」
「いえいえ! 遅れましたが、ケイ・フェネックと申します」
通じているんだか、どうだか分からない返事をしてくる。このロイという少年は貴族ではないみたいだが、着ている服をみると平民のお金持ちらしい。他の子供たちは裸足だが、この少年は靴を履いているし、服の生地が明らかに違うからね。お店の場所を聞いてみると、この村での商売は一部を除いて禁止されているので、パン屋、鍛冶屋、酒場が一軒ずつしかないそうだ。
「もちろん宿屋もございません。普段、旅人は教会に泊まりますが、魔術師さまがよろしければ父に話してみますが、いかがでしょうか?」
まあ、最悪は【秘密の部屋】があるし、偉い人は面倒くさそうだから適当にごまかすか……。
「突然見ず知らず人間が訪れてもお困りになるでしょうし、ご遠慮させて頂きます」
何か凄い驚いた顔していたが納得はしてくれたようだ。何か間違えたか?
「あっ! 私が商売するのは問題ないでしょうか?」
そう尋ねると行商人はよく来るそうなので構わないそうで、許可とかも特に必要ないらしい。一応、お近づきの印として五キロ位の鹿の肉を渡しておく。
「ええっ! こんな貴重な物を!」
「お近づきの印です。代官様によろしくお伝えください」
これでもかというほど、お礼を言って代官の息子は帰って行った。さて売っていいみたいだし、どうするか? ロイ! 子供たち連れて行けよ! 泣いていたけど子供たちは、オレが怖いんじゃなくて代官の息子が怖かっただけみたいだ。今はみんな笑顔になってる。
「教会まで連れて行ってくれる人~」
全員が手を挙げてくれた。可愛い女の子たちに両手を引いてもらい、連れて行ってもらう。男の子たちは渡した杖の取り合いをしていた。
「神父さま~! 魔女さま連れてきた~」
男の子の一人が大声で叫びながら、ドアを開けて入っていった。すぐに年老いた神父を引っ張って出てきた。
「これはこれは、魔術師さま。何かございましたか?」
「初めまして、ケイ・フェネックと申します。この辺の人間ではないので、色々お聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
「私はこの小教区を任されているアズール教司祭、アノンでございます。私の分かる範囲でよろしければ、お答えさせて頂きます」
挨拶を済ませた後、商人の団体に同行して帝国に行きたい事と、この地域の通貨を持ち合わせていないので肉などを売りたい事を伝えた所、商人たちはいつも通りだと三日後に来るはずだと教えてくれた。また通貨はまだこの村では浸透していないので、物々交換になり現金収入は難しいかもしれないと教えてくれた。
「代官様ならもしかしたら買い取ってくれるかもしれませんが、農民はむずかしいでしょうな。私どももわずかばかりですが、売り上げに貢献いたしましょう」
そう言ってくれたのものの、肉の値段がわからないので一応この辺りの相場を聞いて、その相場より若干安い一キロ銀貨二枚の値段にして肉を売る事にする。それが安く感じたのか、純粋に善意なのかはわからないが神父さまは五キロ分もの肉を買ってくれた。おかげで待望のこの世界のお金を手にする事が出来たのである。
一応、銀貨十枚で大銀貨一枚になるのそうなのだが、商売にはおつりが必要だし細かい硬貨があった方が助かるでしょうと、銀貨十枚で渡してくれた。いや~いい人だ。オマケして少し多めに渡しておく。こんなに大量の肉をどうするのかと思ったら、干し肉を作るそうだ。神父さまも肉を食べるんだね……でも買ってくれたので何も言わないでおく。
その後、神父さまに通貨についても教えて貰ったのだが、話から推測するとだいたい銅貨十円、大銅貨百円、銀貨千円、大銀貨一万円、金貨十万円、大金貨百万円、白金貨一千万円くらいだろうか。日本円に換算し考えていると、背中に軽い衝撃を感じた。
後ろを振り返ると、オレの帽子を被った女の子が抱き着いていた。子供たちはまだワイワイ周りを走りまわっていた。
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