第3話 まずは形から

 御使い様に軽い感じで元の世界に帰れないと聞かされた。思わず振り返って聞き返した所、どうやら元の世界に戻った人間は今まで一人もいないらしい。それを聞いた時の率直な気持ちは、まあいいか! である。何か手放したくなくて必死になるような物が何もないのだ。フラれたばっかりだし……。


 


 突然の衝撃発言で別れのタイミングを逃し、しばらく話し込む。




「ここを出た後、最初の道を東に進むと帝国に辿り着けるじゃろう!」


 


 帝国に行こうと思うと話すと教えてくれた。なんでも少し行くと村があるので、そこから商人の一団と一緒に帝国に向かえば、安全度が上がり道にも迷わないだろうとのことだった。人見知りだと伝えると、先ほど覚えた魔法があれば一人でも平気だろうが、最終的には自分で決めればいいと言われた。




「そいえばこの格好で平気でしょうか?」




「そうじゃな、この反物をやろう! 自分で好きに作るがよい」




 またもの凄いものを貰ってしまった。使っても魔力を注ぐと元に戻るそうです……。ついでに中身の減らない米俵と、回すと塩が湧き出る石臼も頂いちゃいました。こういう物って日本昔話では、大抵悪い事をすると使えなくなるよね……気を付けよう。




 お礼を言った後、お互い話す事も思い浮かばず無言の気まずい空気が流れた。




「……そ、それでは、そろそろ行きますね。大変お世話になりました」




「うむ、息災を祈っておるぞ!」




 御使い様に頭を下げ、自分の身長より大きなうろに入るとすぐ先に出口がみえる。あっ! 木で作った御使い様の像をあげれば良かった。でも何となく振り返ってはいけない気がして、そのまま出口から外に出た。






  ♦ ♦ ♦ ♦






 御使い様とお別れした後、一旦部屋を出して休憩がてらステータスをみる。


 


 名前:ケイ 

 種族:人間 

 年齢:14歳

 LV:7

 HP 170/170

 MP 158/280 +50

 STR   37

 VIT   48

 INT   98 +10

 DEX   40

 AGI   33

 RES   54 +10

 LUK   45 + 5


≪ユニークスキル≫


 【秘密の部屋】

 【魔法全適性】 

 【ものづくり】


≪スキル≫


 【料理Lv10】

 【言語理解Lv10】

 【神聖魔法Lv10】

 【水魔法Lv1】NEW

 【火魔法Lv1】NEW

 【風魔法Lv1】NEW

 【土魔法Lv1】NEW

 【光魔法Lv1】NEW




 まず何事も形から入るオレは魔法使いの服を作る事にする。折角頂いた反物を無駄にしたくないので、拾っておいた石でフィギュアの小さい魔法使いを作る。やっぱりツバの大きい三角帽子にローブだな。それでネジネジした長い杖を持って、靴は爪先がクルクルしてる感じ? ん? あれはピエロか? でもその前に靴用の素材がないな! 革か……。




 特に持ち物もないので、ナイフをジーンズの後ろポケットに差して部屋を出る。なんか全部一気に作りたいし、まずは素材を揃えちゃおう! そう思い動物を狩りに行くことにする。まずその獲物を見つける為に、風魔法の探索魔法を使ってみる事にする。すると魔力の円が体を中心に波紋のように周りに広がって行き、円に触れた動物のシルエットが白く浮かび上がる。


 


 三十メートルくらい先に鹿っぽいシルエットが複数見える。ついでに他の魔法も使ってみる。ひざまずいて神聖魔法の祈りを発動する。一瞬、体が淡く光り、力が湧いてきた気がした。続いて加護も発動する。こちらも一瞬体が淡く光り、薄い光の膜が体を覆う。準備を終え静かにシルエットの方角に近づいて行く。群れから一頭だけ離れたので、それをターゲットに決める。




 上手く射程距離まで近づく事ができ、さらに偶々だが風下につけたようだ。さてどうしよう……。火魔法は山火事になるからないとして、いきなり水魔法のカッターで攻撃するか、ライトで目をくらませてからカッターか……。安全にライトからにしよう! 鹿がこっち側に顔を向けたので、光魔法を発動する。


 


「フラッシュ!」




 唱えなくても発動するがカッコいいので唱える。実際はライトである。




「あああぁ~! 目が、目がぁ~!」




 自分も見てしまった。鹿も鳴き声を上げているので光をくらったはずだ。鳴き声の方向に水魔法を飛ばす。




「――ウォーターカッター!」




 もの凄い音と共に木の倒れるような音が聞こえる。




「ぎゃ~~! あぶない! プロテクション!」


 


 身の危険を感じ頭を抱えながら、神聖魔法の防御の魔法を使う。しばらくしてから木の倒れる音もしなくなる。視力が回復して目を開けると、微かに輝く大きな半球状の光の壁が自分を守っていた。




「……自滅する所だった」




 そこでふと我に返り鹿がいたであろう場所を見てみると、鹿は木の下敷きになって息絶えていた。木を鹿の上からどかし亡骸に手を合わせる。昔のオレは生き物の生き死にへの強い忌避感があったが、今のオレはRESの値が高いからなのかもしれないが、それほど何も感じない。むしろ次はもっと苦しまないようにと思う自分に驚いていた。




 その後はその辺の草でロープを作り、鹿の内臓を抜いて木につるし血抜きをする。料理のスキルのおかげか気持ち悪くもならず手早くできた。内臓はちょっとお腹を壊しそうで怖いので、地面に埋めておく。




 血抜きを待つ間は暇なので、倒してしまった木で家具を作ることにする。何が必要か? ベッド、棚、作業台、テーブル、椅子、ソファ辺りか? あっ! あの部屋はフローリングにして靴を脱いで入ることにしよう。




 まず最初に土魔法で石を運び玄関部分の床を作る。そこから階段をつなげて土足で上がれる中二階を作り、そこを作業場にする事に決める。中二階部分と階段は土台を木で表面は石で作り、そこに作業台と棚をいくつかおいてとりあえず終了にした。


 


 一階部分は玄関から一段高さをつけてフローリングを敷き詰める。そこにベッドの木枠と、ローテーブル、ソファの木枠、タンス、ロッキングチェア、棚を二台配置しておく。あとは木で作れる小物を、適当に思い付くだけ作り棚にしまう。残りは靴と一緒に作る予定なので、しばしの休憩をとる事にしてロッキングチェアに座ってみる。ふと見ると木彫りの御使い様と目が合った気がした。

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