アタシの……

@Sakurasuitou

戯言

プカプカ。プカプカ。目の前がぼやけて境界がユラユラり。

アタシ、この感覚が好き。まるで、アタシの存在が水と同化しているみたいで、アタシの重たいところ、嫌なところを包み込んでくれているみたいで落ち着く。 ずっとこうして居られたら良いのに。

でも、アタシはもうそろそろ現実に戻らないといけない。嫌々、水面から顔を出して、身体を起こした。

はぁ……。嫌だ、嫌だ。身体が重い。頭が重い。髪が重い。まるで、水が此方に戻ってこいというように引っ張ってくるみたい。このまま戻ってしまいたいけど、ダメ。これから夜御飯なの。全くお腹は空いていないけれど、食べないと一人になれない。変に心配されるのは、変に気を遣われるのは嫌、嫌。

だから、アタシは人間に戻らないといけない。水から出て、重力に従いながら、逆らいながら、人に流されながら、抗いながら、世間に揉みくちゃにされながら、疲れ果てながら、生きなければ。そうしなければ、そうやってでも生きようとする努力をしなければ、見せなければ。その努力を捨ててしまったら余計生きづらくなる、人からダメな奴だと思われる。人からダメな奴だと見られるのは、思われるのは、人からそう思われているくせして、何となく、けど何処か必死に生きていくのはアタシからしたら何よりも醜くて、醜くて、ただでさえアタシが嫌いなのにもっとアタシのことを嫌いになりそうで、嫌、嫌なの。

アタシは胃の空いてる隙間なんてほんの数センチしかないのに、無理矢理そこに夜御飯を詰め込んで、部屋に戻って考えた。

何故皆はあんなに透き通って見えるのかしら、何故皆はあんなに笑顔で生きていけるのかしら、何故皆あんなに息がしやすそうなのかしら。どうして?どうして?誰か教えて頂戴、アタシには考えたって分からないの。

アタシはずっと鈍い色を身にまとっていて、どんなに明るくて透き通った色を身にまとおうと努めても、やっぱりアタシは何色かも形容できない汚くて、濁っていて、醜い色をずっと身にまとっているのに。アタシは、必死に口角を上げようと、毎夜鏡の前で練習してもなお、上手くできずに何回も何回も指で口角を無理矢理上げて、癖を作ろうとしてもなお、上手くいかずに苦しんでいるのに。アタシは金魚が餌を求めて口をパクパクさせるように、マグロがずっとずっと動き回っていなければ死んでしまうように、誰かの役に立ちながら生きることが良いことなんだ、という重荷を背負いながら、必死に口をパクパクさせて息を吸い込みながら、吐き出しながら、動いているのに、生きているのに。

もしかしたら皆、アタシみたいに苦しんで苦しんでいて、腹の中でずっと消化できずに残っているものを見て見ぬふりしながら、それでもふとした瞬間にぶわぁっと、望んでもいないのに、頭の中に霧のように広がって、脳ミソにモヤがかかってボヤァとした頭を抱えながら、その霧のせいで先の見えないことに怯えながら、生きているのかもしれないが、それでも皆が羨ましい、羨ましくて妬ましい。

だからアタシは水が好きなの。水は皆に平等な気がする。地面の上は、皆道具なしで息ができるのに、できているのに、アタシは上手にできなくて、まるで、息を吸って吐くことにも才能が、努力がいるのかしら、と思って、才能がない自分が醜く、醜く見える場所。

でも、水の中に入っていると皆、平等に道具なしでは息ができない。皆が苦しんで、もがいている。それに、水のあの暗い色は全てを隠してくれている気がして、良いの。水が重なって重なって、さらに重なると、どんどん暗くなって、下が見えなくなってくるのも、良い。空とは何処か違う。空は、透き通っている気がして、何時も私たちの上に存在していて、まるでアタシたちをずっと監視しているようで、それが嫌、嫌。どんなに隠しても、空にだけは全てバレている気がして、無性にムカムカする。アタシは空について何も知らないのに、向こうはアタシの何もかもを知っているの。そんなの理不尽。

でも、水は、そんなことない。アタシの憧れ、アタシのいいところもダメなところも隠してくれる、許してくれる、包み込んでくれる、そして、変幻自在で、アタシにとっても皆にとっても生きていく上で無くてはならないモノ。

そんなモノにアタシも成りたい、成りたいの。でも、そんなモノには成れなくて、何故成れないんだと、自分を責める度、本当はそんなモノには、どんなに偉い人でも成れることなど無いのだと気づく度に、アタシはアタシが嫌いになって、嫌いになって、その度にアタシが醜く、醜くなっている気がしてならない。それが、哀しくて、哀しくて、耐えられなくなる。

そんなことを考えていると部屋に戻ってきてから大分時間が経っていた。時計の針が真上を指そうとしている。

そろそろ寝なきゃ。だって、アタシには、明日も学校があるもの。そこで、アタシはまた、自分を隠して、隠して、隠していることが分からないように嘘ついて、嘘ついて生きていかなければならない。正直行きたくないけれど、一回休むと面倒になるから行かなければならない。面倒くさい思いはなるべく、したくない。

アタシは布団を頭まで覆い被せて、目をギュッと閉じた。布団の中も、瞼の裏も水の中にいる時に似ている。アタシ、やっぱりずっとこうしていたい。水とは違って本当に、薄らと見えることもなく、ただの闇しか見えないし、分からないけど、それでいいの。別に外を見たいと思わない、分かりたいとも思わない、知る度に苦しくなるぐらいなら、無知のままでいたいの。アタシは頭がグルグルしてきて、疲れてきたので、思考するのを止めて、 意識を手放すことにした。




……あら? そこに、誰か、居らっしゃるの?これを、御覧になっているの?……そう、そうだったのね……。

ゴホン、さてさて、これを御覧の皆々様、これ迄、色々愚痴愚痴と述べておりましたが、全て戯言たわごとで御座いますので、どうかお気になさらずようお願いしますね。アタシのせいで皆様がお困りになるのは本望では、御座いませんので。

皆様は、いい夜をお過ごしなって下さいな。それでは、御休みなさい。


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