第53話 カラオケ

「87点ってマジ!?」

「なんであの歌声で87なんだよ」


 魔王を歌い終えた斗羽は目をかっぴらきながら画面を見ており、俺は笑いながら言葉を返していた。


「今日めちゃくちゃ調子いいかもしれん!」

「そんなわけあるかって!」

「この点数見たろ!?」

「絶対音痴過ぎて機械が狂ったよ」

「じゃあもう一曲歌うからな!」


 ずっと笑いながら言葉を返す俺に対抗心が湧いたようで、タブレットでまた曲を入れる斗羽は、次はおふざけなしのJ‐popを入れていた。


「絶対低いって!」

「今超集中してる。超集中モードの斗羽だぞ」

「変わらん変わらん」


 まだ魔王の余韻が残っている俺は肩で息をしながら、笑いすぎてにじみ出てきた涙を拭きとって画面に目を向けた。

 案の定点数は――


「――え、90点?」

「ほら!やっぱ今日調子いいって!」

「絶対機械が壊れてるだけだ!」


 画面にはでかでかと90という数字が書かれ、リズムに乗れていて表現力があります、とAIに言われていた。


「驚きすぎて笑いも消えたか!」

「いやいやいやいやいやいや。俺はまだ信じんぞ」

「ここに書いてあるじゃないか。大きく。きゅ、う、じゅ、う、ってな!」

「うっぜぇー。斗羽で90行けるなら、俺は95行けるわ」

「絶対いけませーん」

「客は黙って俺の美声を聞いときな!あまりの美声に涙が出るぞ!」

「微妙の微と書いて、微声か!そして、あまりの下手さに笑涙が出るってことか!よっ!今日の裕翔は面白いこと言うな!」

「っるせーな!黙って聞いとけ!!」


 クッソ。自分の調子がいい時に限ってこいつは口が回る。

 見とけよ!絶対高得点だすからな!


 タブレットに文字を打ち、俺も斗羽と同じようにJ-popを入れ、マイクを片手で握った。


「いつもの十八番の曲じゃねーじゃんかー」

「最初は練習だ」

「お?保険か?」

「最初っから本番じゃボケーい!!」

「だよな!」


 斗羽は笑いながら俺のことを煽り、対抗心が付いた俺はBGMが流れ始めると同時に画面に目を向けた。

 自分で言うのもなんだが、超絶好調だった。

 たった今斗羽と言い合ったからか、喉も開いており、非常に声の通りがよかった。

 結果、俺は本当に予言通りに95点を叩き出すことに成功した。


「うっしゃ!どうだ見たか!」

「絶対機械壊れてるって」

「この機会は超正常だよ。俺の美声を分かってくれるいい機械だ」

「面白くねー。音痴で俺より点数が低いのがオチってもんだろー」

「ごめんなー?俺がうまくてよー」

「うっぜー絶対俺の方がうまかったって」


 相当悔しいのか、斗羽はタブレットを突きながら文句を言ってくる。

 負け犬のなんとやらってやつかな。


「何度歌っても無駄だよ。斗羽くんやい」

「無駄じゃないってことを教えてやるよ!」


 その後もなんども俺たちは競い合い、J-popだけでは関わらず、ジャズやK-popなどの歌も歌い続けた。

 結果的には一番初めの90点と95点が俺たちの最大で、それ以降は87点や85点、下手な時は73点の時もあった。


 これは機械が壊れているな。

 そう確信した俺は、マイクを机の上に置いてスマホの時間を確かめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る