第52話 一方その頃
「おっ、あいつらカラオケ入ってくぞ?」
しょうもない会話を続けていると、やっと目的地に着いたらしく春樹たちは何の迷いもなくカラオケに入っていく。
「もし斗羽がいいって言うなら、俺たちもカラオケ入るか?」
「逆に入らないって選択しあるか?」
「ないよな!」
「あたりめーだろ!」
また意味も分からないグータッチをした俺と斗羽は、春樹たちの受付が終わる頃合いを見計らってカラオケへと入る。
店員さんに「さっきの二人組の隣の部屋にしてください!」と無理を言ってみる。本当に無理なお願いだから拒否されると思ったが、お客さんがあまりいなかったのかすぐに了承してくれた。
店員さんから部屋の番号とコップを受け取った俺たちは、細心の注意を払いながら春樹たちが入った部屋のドアの前を通って指定された部屋へと入った。
「店員さん神じゃね?」
と、俺が言う。
すると、マイクを握った斗羽が、
「わかる。マジで神だった」
と、音量とエコーを合わせるためかマイク越しに言ってくる。
「あーあー裕翔これぐらいでいいかー?」
「いんじゃねー?春樹がいないからどれぐらいがいいか分かんねーや」
「それなー」
マイクに声を通す斗羽と、俺ももう一つのマイクに手を伸ばしながら言葉を返す俺。
カラオケに来るときは毎回、春樹に設定を任せていた。
というのも、あいつは歌がうまい。 どの曲でも90後半を取るほどの実力者だ。
だからこそ、今日は自分の歌声を自慢するために後輩ちゃんと一緒にカラオケに来たのだろう。
「じゃあ早速~」
そう言いながらタブレットを操作する斗羽を横目に、画面に映るCMを眺める。
その時だった。画面が切り替わり、次の曲が表示される画面になるとそこには、
「おま、しょっぱなから魔王かよ!」
「やっぱり最初はテンション上がる曲じゃないとな!」
「絶対歌えないって!」
「行ける行けるー」
ゲラゲラと笑いながら会話し、ピアノの音がスピーカーから流れ始めてテレビに映る字幕を必死に読みながら斗羽は歌いだす。
「クッソ下手じゃねーか!」
笑いながら左手を胸に当て、右手を上げる斗羽に言う。
斗羽はそんなのは気にしていないようで、自信ありげに歌い続けていた。
一方その頃、隣の部屋では。
「隣の部屋の人、元気だね」
「ですね。部屋変えてもらいます?」
「店員さんに迷惑かけるわけにもいかないし、このまま続けようか」
「了解です」
「最初は何を歌おうか?デュエット曲でも歌う?」
「歌えるんですか?」
「大体なんでも行けるぞ」
「凄いです!先輩!」
「だろ?」
隣からの笑い声と変な歌声で雰囲気は最悪だと思われたが、雰囲気は良好。
なんならイチャイチャしていた。
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