第51話 チキンレース
斗羽が指さしている方に目を向けると、そこには春樹と先ほどまで俺たちの間で話題に上がっていた後輩の女の子が並んで歩いていた。
「なんか、ストーカーって言うのはあれじゃないか?」
「ストーカーは流石にダメか」
ダメというかなんというか、それは社会的にダメなことをしている気がしてあまり気が乗らない。
だから――
「――尾行という名でついていこう」
「そっちのダメか」
「そゆこと」
「ってことは、乗り気ってことだな?」
「そだ。超乗り気だ」
「良し行くぞ!」
「おう!」
なぞに気合を入れた俺と斗羽は、なぞのグータッチをして正門を出る春樹たちの後ろをササっとついて行く。
電柱の後ろに隠れ、バス停の看板の後ろに隠れ、時には堂々と春樹たちの後ろを歩く。
今はどこかへ向かう途中なのか、楽しそうに話すだけの二人。
ただ、俺たちには声が聞こえない。
だからか、俺たちは面白さを求めるようになっていた。
「なぁ裕翔。チキンレースしようぜ?」
「と言うと?」
「ルールはいたって簡単。どっちがどれだけあの二人に近づけるかってゲームだ」
「ほー?なるほどな?面白そうじゃん」
「だろ?じゃあまずは言い出しっぺじゃない裕翔から」
「普通は言い出しっぺからだろ!」
なんて会話を声を潜めながら、それも自動販売機に隠れながらする俺たち。
「もしかして、もうビビってんのかー?」
「ビビってねーよ。何言ってんだ?俺がこんなことでビビるとでも?」
「ビビってるから俺を先に行かせたいんじゃないのかー?」
「んなわけないだろ。そこまで言うなら行ってやるぞ?」
「見せて見ろよ。どこまで行けるか」
「見てろ見てろ。すっごいところまで行くぞ」
斗羽の煽りに乗った俺は息を潜め、タイミングを見張らかって自動販売機の影から飛び出した。
ススっと電柱の後ろに隠れ、丸見えであることを分かっていながらも自転車の後ろに隠れ、たまたまそこにいた猫の後ろにも隠れてみる。が、二人が気付く様子は見られない。
――今だ!
完璧なタイミングを見つけた俺は足音一つ立てず忍者のように二人の後ろに近づき、わずか5メートルのところで後ろを向いてピースを向ける。
そして慌てて電柱の後ろに隠れ、斗羽が来るのを待った。
この背徳感がたまらん。
絶対やってはいけないことなのに、やってしまうという背徳感。そしていつ見つかるか分からない緊張感。
たまんねぇ。
「うはっ、めっちゃいい所まで行ったじゃん」
「だろ?えぐい緊張したわ」
「俺も変な笑いが出るほどにはハラハラしたわ。いざとなったら裕翔置いて逃げようと思ってたし」
「ひっどいな。まぁでもバレなかったぞー?」
「うわ。俺、あれよりも近づかないとダメなんかよー」
「そだぞー」
一応電柱の後ろから電柱の後ろへと素早く移動しながら話す俺たちは、二人の様子をうかがう。主に斗羽が。
「もし、行きたくないと言ったらどうする?」
「勢いよく斗羽のことを突き飛ばす」
「まぁそんなこと言わないけどな!」
そう言い残した斗羽は勢いよく飛び出し、スピード勝負で行くつもりかどこにも隠れることなく一直線に春樹たちの後ろへと向かう。
もちろん足音は一切ないし、気配も全くない。
俺が言うのもなんだが、完璧すぎる。
「うわすっげぇ」
あの度胸は柔道で授かったのだろうな。
二人の真後ろ――わずか2メートルのところ――でベロベロバーと春樹たちを煽るように頭と手を振った斗羽は俺と同様、慌てて近くの電柱の後ろに隠れた。
俺も急いで斗羽の所へ行き、音が出ない程度の力で背中を叩く。
「やりすぎだって!」
「男ならあれぐらいやらないとな!」
ニヤけをこらえるように言い合う俺たちはお互いを認め合うように握手する。
「やっぱ斗羽の度胸はすげーわ」
「裕翔のあの影の薄さ、そして猫の後ろに隠れるという頭の悪さ。尊敬するぜ」
「……それ、悪口じゃね?」
「面白くていいってことだ。決して悪口ではある」
「あるんかい!」
やっぱこれだよな。
昨日までの放課後はおかしすぎた!
男子高校生の放課後と言えば、こういう友達をからかうようなことをするのが一番楽しい!
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