第17話 気遣いもできる

「で、うちの教室に来るのか?」

「本当はそれがいいのですが、周りの目線がありますからねぇ……なので、ホームルーム終了後に、正門前集合でお願いします!」


 なるほど、植坂自身もあまり広められたくはないようだ。

 ……いや、なら食堂で話しかけてこないな?


「ちなみに、なぜ周りの目線を気にする?」

「だって、来夏さんと婚約してるでしょ?そんな状態で、私と放課後デートなんてしたら、厄介オタクたちが騒ぐじゃないですか」

「植坂……お前、気遣いができるのか……!」

「さすがに舐めすぎですよ!!」


 いや、流石に植坂は舐めるよ?

 さっき、舐められるようなことしたんだから。


「まぁ、それはありがとうだな。感謝感謝ありがとうty」

「全く感謝されてない気がする……!」

「してるしてる。ありがとな」


 まぁこれについては素直に感謝でしかない。

 正直、厄介オタクには懲り懲りしてる。こういう時にバレたら、さらにめんどくさくなるだろうから、本当に感謝だ。


「もっと感謝してください!私、承認欲求高いんです!」

「おうそうかおやすみ」

「おやすみ――じゃないです!寝ないでください!」


 思ったけどこいつ、のりツッコミがすごいな。

 楽しくていいとは思うけど、にしてもすごすぎるな。

 まぁ止められようが、俺は寝るけど。

 掛け布団を頭までかぶり、枕で耳を塞ぐように頭に押し付ける。


「寝ないでくださいー!」

「熱があるやつを寝させないというのは、人間として疑うぞ」

「熱はなかったじゃないですか!」

「いや、あるかもしれんぞ」

「私が確かめたんですから、ないに決まってます!」


 グイグイと掛け布団を引っ張り合う俺と植坂。

 幸い、俺と植坂以外は保健室にいないようなので、いくら荒れても迷惑になりそうにない。

 保健室の先生がどこかに行ったせいで、こうなってる気がするんだけども……。


「分からんだろ、というか普通に眠いから寝させろ!」

「いーやーでーすー!!」

「誰かと話したいのなら、その辺で見つけて来いって!」

「羽月さんがいいんです!羽月さんにしか、こんな事出来ません!!」

「なんで俺なんだよ!」


 瞬間、植坂がいきなり掛け布団を放し、照れたように頬に手を当てだす。

 そのおかげで、ベッドに頭を打ったのだけども。


「それはちょっと……お、乙女の理由があるじゃない……?」

「なーにが乙女だ。冗談はほどほどに。おやすみ」

「冗談じゃないですって!」


 またもや寝ようとした俺を阻止するためか、頬が少し赤く染まっていながらも、掛け布団を引っ張り始める植坂。


 もういいよ、掛け布団ぐらいくれてやる。

 そいつがいなくたって、俺は寝れるぞ。


 そんな意味も込めて、掛け布団を放し、次は枕の下に手を入れこんで寝ようとする。


「おやすみ」

「別に掛け布団が欲しかったわけじゃないです!」

「……」


 俺は思った。こいつの言葉に反応しなかったら、どうなるんだ?

 素直な好奇心だが、もし、これで無言になってくれるのならこちら側としては最高の結果だ。


「寝ないでください!」

「…………」


 無言で。


「寝ないでください?」

「………………」


 とにかく無言で。


「ね、寝ないでください」

「……………………」


 なんか、植坂の雰囲気が変わったような?


「寝ないでください……私、寂しい」

「……おい、ずるくないか?それ」


 なんだ?俺の良心を痛めつけて楽しいのか、こいつは。

 こんな状態で寝たふりを続けろと言われる方が難しいだろ。

 少なくとも俺には出来ないぞ。


「起きて……くれます?」

「なーんだよ。起きるから、その寂しそうな目をやめてくれ。良心が傷つく」

「だって、羽月さんが悪いんじゃないですか」

「うーん?俺が悪い……とはならんけど、まぁ今だけはいいわ」

「慰めてください」


 慰めてほしいと言った途端、植坂はベッドに這いつくばり、渋々体を起こした俺に近づいてくる。


 ……なんというか、猫というかウサギというか犬というか……色んな動物が合わさってできた奇妙な生物みたいだな。

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