第15話 寝起きに美少女

 何かが鼻をくすぐられて出たくしゃみによって、一気に意識が現実へと戻される。

 幸いなことに、軽いくしゃみだったから唾は飛ぶことは無かったが、非常に見たくない顔が真上にあった。


「何股がってんだ」


 俺がくしゃみをした原因、植坂の髪を、自分の顔元から払い、俺を見下ろす目を睨む。


「少し、寝ようかなぁ〜?って思っただけ?」

「嘘つけ。口元歪んでるし、俺の上に股がって寝れるわけないし……疑問形はなんなんだ?」

「いやー?それはー、そのー……なんか、いるから見ようかなーと」

「なるほど植坂は、誰かがベッドで寝ているところを見ようという思考になるんだな?学校で有名な、あの植坂さんは」

「ち、違うから!たまたま羽月さんが寝てたから!」

「俺が寝てたら植坂は、寝顔を覗き見るのか!」

「うん!見る!てか、今も見てる!」


 うん、素直だ。

 素直に言うのは非常にいいと思う。さっきも言ったけど。

 でもな?俺の気持ちになって考えてみろ。

 寝起きに美少女が目の前にいるんだぞ?それも俺の寝顔を見ていたと言ってるんだ。

 すっごく恥ずかしいからやめてくれ!


 植坂の言葉に、思わず顔を背けてしまった俺は、植坂の体を押しのけながら起き上がる。


「顔、赤いですよ?熱ですか?」


 やっぱり赤かったか……!

 だがまぁ、都合のいい言い訳を植坂が言ってくれたから、その言い訳をありがたく使わせてもらう。


「熱かもな、だからあまり近くによるな」

「えー嫌です」

「嫌ですじゃねーよ」

「私、実は聖女で、近くにいるだけでその病気を治せるんです!」

「……そか。なら、カーテンよりも外にいろ」


 こいつは分かりやすい嘘をつくなぁ!

 もっといい感じの嘘はなかったのか?

 なんてツッコミをすれば、植坂は「元気じゃないですか!」って言いかねないので口には出さない。


 俺は、いつの間にか閉められていたカーテンを指さし、さっさと出ていくように指示するが、


「近くにいたいです!」

「……しぶといな」

「その言葉はあまり言われませんね」

「…………そか」


 植坂が普段みんなに、何を言われているのか気になってるんじゃねーよ!

 ていうか、そこまでして俺から離れたくない理由はなんだよ。

 気になることを解消させるために、俺はそのまま言葉を紡ぐ。


「一つ聞くけど、なんで離れたくないんだ?」

「羽月さんをおと――お熱を治したいからです!」

「おい今何言い淀んだ。言ってみろ」


 明らかに別のことを言おうとした植坂を見逃すわけもなく、俺は敬礼している植坂に言葉攻めする。

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