第14話 子供
懐かしみ溢れる公園、よく3人で遊んでいた遊具に砂場。……なんなら、3人で作ったであろう泥団子までもがある。
「ゆうちゃん!」
ゆうちゃんなんて、いつぶりに言われたっけ?
肩を叩かれて、昔のあだ名を呼ばれた俺は無意識に反応して、後ろを振り向いていた。
「どうしたの?かおちゃん」
そこには満面の笑みのかおちゃんが、新しく作ってきたのであろう泥団子を、俺に差し出してきていた。
「これ!あげる!」
俺も満面の笑みを返しており、素直に喜びながら差し出された泥団子を受け取った。
きっと、ただただ作った泥団子を自慢しようとしただけなのかもしれない。
だけど、俺の初恋の人の泥団子を、笑顔無しで受け取れる訳がなかった。
「ほんと!?ありかと!かおちゃん!」
「うん!」
本当に無邪気だったと思う。
ただ思うがままに走り回り、疲れたらブランコで休憩し、かおちゃんがおままごとをしたいと言ったら砂場に行く。
さらにそこに、幼馴染の来夏も混ざって、すごく楽しかった。
だけど、お別れというのは本当に、突然として起こる。
俺たちが年長の時だった。
かおちゃんが突然にして、どこかに行ってしまった。
親に聞いたところ、遠くの小学校に通うから、引っ越したと言っていた。
本当に突然過ぎて、あの時はさすがに泣いたな。
何も言わずにどこかに行ってしまったんだぜ?小さい頃のちっぽげな心では、そんなことを受け入れられる訳もなく、すっげー泣いた。
だってさ、かおちゃんがいなくなる前日に、1つの約束をしたのだから。
突然かおちゃんに呼ばれて、俺はいつもの公園に行っていた。
その時は来夏はおらず、いつものように2人でブランコを漕いでいた。
「ゆうちゃん」
「どしたの?」
また、おままごとがしたいのかな、なんてことを思ったけど、かおちゃんの雰囲気はいつもとは違っていた。
「ゆうちゃんって、私の事好き?」
「大好きだよ!」
ただ純粋に、思ったことを口にした。
子供の頃はあまり、恥ずかしさとか告白とか、そういうのがまだ分かっていなかった。だからこそ、すぐに大好きと言えた。
「ほんとに!?」
「うん!」
「えへへ、やったぁ!私もゆうちゃんのこと大大大好き!」
かおちゃんがそう言うと、ブランコをおりて俺のブランコの横に立ってくる。
どうしたんだろう?という気持ちと、かおちゃんの笑顔につられてブランコの揺れを止めると、かおちゃんが大きく腕を広げてきた。
「かおちゃん?」
「おいで!」
首を傾げても、腕を下げないかおちゃんは、抱きついてこいと言わんばかりに、さらに腕を広げてきた。
やっぱり、何を言いたいのかは分からなかったけど、かおちゃんがしたいと言うなら、断る訳がない。
俺も腕を広げ、かおちゃんの腕の中に入ると、次はギューッと俺の事を抱きしめてきた。
「か、かおちゃん?」
「私の将来の夢、ゆうちゃんと結婚することなんだ!」
「僕と結婚したいの?」
「うん!」
かおちゃんの言葉に、俺は驚きと言うよりも、嬉しさが勝っていたのだと思う。
だから、抱き締め返した。
「僕も、かおちゃんと結婚したい!絶対に結婚する!」
「やった!」
こんな子供の約束、それも小学生にも上がってないガキの約束を未だに引っ張っている俺は、相当重い愛をすると思う。
まぁまず、かおちゃんがこの約束を覚えてないと思うけども。
そういえば、かおちゃんの名前ってなんだっけな。
……あれ、本当なんだっけ。かおちゃんとしか呼んだことがないから、まじで覚えてな――
「――ックシュン」
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