第13話 厄介オタク

 教室へ戻ると、幼馴染兼婚約者の来夏が、友達と楽しそうに話す姿が視界に入ってきた。

 だが、特に俺と関係がある話はしてなさそうなので無視して椅子に座り、すぐに机に突っ伏した。


 ……疲れた。


 ただこの一言に限る。あいつと一緒に行動して、まだ三十分しかたっていないはずだ。

 いやまず、なんで休み時間に疲れないといけないんだと言いたい。


 残り十分、ゆっくり休もう。

 なんならこのまま眠りについてもいい。

 とにかく、この俺に休息をくれ――


「裕翔?どうしたの?」


 ――心配してくれてるんだよな?ありがとう。

 聞き覚えのある婚約者の声に顔を上げ、微笑みを浮かべるが、多分少しだけ疲れが顔に出てると思う。


「ちょっと食堂で色々あって、気疲れしちゃっただけだよ」

「ふーん?そうなんだ。何があったか聞いてもいい?」

「騒がしいやつに絡まれただけだよ。大したことはないから大丈夫」

「騒がしい人ねぇ」

「そう。てか、友達と話してたんじゃないの?」


 そう言い、俺はチラッと先ほどまで話していた女子たちを見やると――また言ってやがる……。

 彼女らは――というか来夏の友達全員が、俺と来夏の厄介オタクだ。

 どうやら、来夏本人が婚約のことを言いふらして友達を厄介オタクにしているらしい。


 正直なところ、俺はあんまりこの結婚に乗り気じゃない。

 というのも、俺の母さんや妹、来夏の親たちに強引に許嫁にされたからな。

 俺はあの約束……あの子と交わした、結婚しようという約束を――


「裕翔?本当に大丈夫?」

「あー大丈夫。だけど、少し寝るわ」


 どうやらボーっとしていたらしい。

 グイっと顔を近づけてきた来夏のおかげで現実に引き戻してもらったが、相当疲れているようだ。


「いいけど……保健室じゃなくて大丈夫?」

「あー、保健室いいな。行ってくる」

「サボる気満々じゃん」

「気のせいだよ」


 まぁ寝るなら質のいいところで寝たいよな?

 別に教室で寝てもいいが、それで悪化してもだめだからな?

 うんうんそうだそうだ。


 適当な言い訳で自分を納得させた俺は、教室を後にする――前に、ちゃんと周りを見て、奴がいないことを確認してから教室を後にした。


 廊下ではこれと言って、仲の良い人物と出会うことは無かった。

 いやまぁ、俺と仲のいい人は本当に極わずかなんだけども……。


 保健室に到着した俺は、先生に具合が悪いということを説明すると、案外素直に受け入れられ、ベッドで寝ることを勧められた。


 こんな簡単に休ませていいものなのか?なんてことも思ったが、いつでもサボれるということなので黙っておこう。


 ベッドに入ると、どっと眠気が体に押し寄せてきた。

 どうやら、本当に疲れが溜まってたみたいで、瞼が閉じかける。


 ……まぁ、寝るために来たわけだし、このまま眠りについてもいいか。

 そんな考えを最後に、俺の思考は夢の中に落ちていった。

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