第10話 息が合う?絶対ないね

 聞く必要なんてなく、ご本人が言ってくれた。それも、悲しげな目のおまけ付きで。

 まさか、こいつ本気で初対面じゃないと思っていたのか?


「知らなかったね。名前すらも知らなかったんだから学年なんてもっとわからん」

「……私、この学校でもかなり有名ですよ?」

「そうなのか?」


 本当かどうかを確かめるため、俺は黙々とトンカツを食べる斗羽の方を見やる。

 そんな目線に気づいたのか、顔を上げた斗羽は「そうだね」と頷きながら言う。


「まじか。――てか、それ知ってるならなんで昨日言わなかったんだよ!」

「いや、俺も初対面というのは嘘だと思ってたから」

「嘘じゃねーよ。俺が嘘ついたことあるか?」

「ある」

「……即答かよ」


 いやまぁ、嘘ぐらいついたことあるけども、少しぐらい言い淀んでもよくないか?即答なのは少々腹が立つぞ。

 まぁ今回は、話を逸らしてくれたという恩を勝手に買ってやるから許してやる。

 だが、次は無いぞ!


「ってなんだよその目。俺は本当のことしか言ってないぞ?」

「……際ですか」


 どうやら斗羽のことを睨んでいたようだ。

 別に睨むつもりは無かったが、無意識に睨んでしまったのなら仕方ない。許せよ斗羽。


 さて、そろそろ食事に手を付けないと、食べてる途中に神の時間が終わってしまいそうだ。


「改めて、いただきま――」


 ……食べられない。

 だって、隣からすっごい目線が来るんだもん……。食べにくいったらありゃしない。


 可愛い顔が上目遣いで、それも涙目で俺を眺めてくるんだぞ?

 こいつが隣にいると本当に調子が狂う。というか、本当に食事が進まない!


「……こっち見んな」

「だって……私のことを知られてなかったんですよ……!」

「ごめんって」

「許しません」

「なら許さなくていいからこっち見んな」

「許すから見ます」

「許さなくていいぞ。なんなら話さなくてもいいぞ」

「嫌です!」


 まさか、可愛い女子にこんなにも求められる日が来るとは。

 再度思うけど、こんな羨ましいことないだろうな。実際、俺の目の前の斗羽が羨ましそうに見てるし。

 いやまぁ、女子を求めていない男からするとめんどくさいの一言に限るのだが。


「もう何でもいいからさっさと飯食え。植坂も食えずに終わるぞ」

「見てもいいの?」

「いいよ。見るなり焼くなり煮るなりしてくれ」

「別にそこまではしないんだけど……顔は見るねー!」

「……どうぞ」


 ダルがらみしてくる酒飲みを相手してる気分だ……。

 いや、実際に酒飲みのダルがらみを味わったことはないから何とも言えないけど、めんどくさいという事はわかってくれ。

 こんなの、とんかつ定食を食べてもカロリー足りないぞ?


「2人とも息ぴったりだね」


「そんなことは断じてない!」

「やっぱりそう思うよね!」


 クソッ!息があってしまった!ここで息が合ったら絶対からかわれるじゃん!

 この斗羽というやから、またの名を俺の親友。絶対に許さないからな?


「……なんだよその目」

「いや?これからのお前の対応次第で変えようかなと」

「……なるほど。――ってかお前らめっちゃ息合ってるじゃん!」


 なるほど。

 何もわかっていないようだ。

 こいつは後で締めるの確定として、今は食事に集中しよう。

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