第9話 同じマンションに住んでいるのならその可能性もあったよな
「――あっ」
席を探している隣で、斗羽が何かを見つけたような驚いた声を出した。
「見つけたなら行こうぜ」
当然、席を見つけたのだと思った俺は斗羽にそう提案し、道案内させようとする。
だが、斗羽には動く気配が一切ない。
「おい、どうし……た」
うそ……だろ?
斗羽が向く視線の先には、記憶にはっきりとある――というより記憶に焼き付けられた人物が、2人でとんかつ定食を持って歩いていた。
その人物というのは言わずともわかるだろう。
昨日のワクドナルドの女店員――植坂だ。
「おい斗羽。絶対にあっちに行くな――」
「あー!昨日の店員さんじゃーん!」
「てめごら斗羽ごら!」
もうとっくに俺の隣から姿を消していた斗羽は植坂の元へ行き、わざとらしい笑みでこちらを見てくる。
……最悪だ。
極力関わらないようにしていた、俺の作戦がすべて崩された。
……いや、同じマンションに住んでいるんだから、同じ学校に通っているという可能性も追加しとくべきだった……!
「あっ!羽月さんだ!」
てめごら斗羽ごらー!!
俺を見つけた途端すっごい笑顔になりやがったぞこいつ!
お盆を持ってなかったら手を振りだしそうだし、下手したら抱きついて来るんじゃないかと思うぐらいの勢いで、こっちに来るぞ!
「すみません、俺はあなたのことをご存知ではありません」
「嘘つき!昨日あんなに友情を深めあったというのに!いえ、友情どころか愛情も……!」
「深めてませ――」
「へー。あなた、そんなに花音と仲がいいんですね」
「だから知りませ――」
「そうだよ雪乃!私達、超仲いいんだよ!」
クッソ!こいつら人の話を全く聞かないタイプの人間だ……!
しらばっくれ作戦も失敗だし!斗羽もどうにか言ってくれ!
そういう気持ちで斗羽に目を向けてみるが――期待なんてする必要はなかった。というか、する意味がなかった。
なぜそう思ったのか、理由を言おうか。
斗羽は見守るぞと言わんばかりの――さっさと二人で話せよと言わんばかりに細めた目を俺に向けてきていた。
「どうした?裕翔」
「……もういいよ。食べるなら食べるぞ。そこの椅子でいいか?いいよな、よし行こう」
「羽月さん乗り気だね〜」
「…………もうそれでいいよ」
これは俺の警戒不足だ。
今だけは我慢して、これからはできるだけ関わらないようにしよう。よし、そうしよう。
非常に憤りながら、俺は三人の前に先行して歩く。
なるべく早く終わらせてやろうという気持ちを込めて。
「羽月さんも日替わり食堂好きなんですか?」
席に座るや否や、植坂が俺の隣に真っ先に座ってきて、質問してくる。
昨日からの態度、そして今日の態度を見ればもう嫌でもわかる。こいつ、相当俺のこと好きだな?
「好きだぞ」
「や、やだぁ……!好きだなんて……」
普通に質問の答えを返したつもりだったが、頭がお花畑らしい。
「何勘違いしてんだ脳内お花畑」
「そんな隠さなくてもいいじゃないですか。もっとオープンに行きましょう!私をお持ち帰りしたいと!」
「しないから」
「絶対買い物下手ですよ、この人」
「いらないものは買わない主義でしてね」
「いらないものってなんですか!再重要人物ですよ!」
「んなわけねーだろ」
いかん。このままだと食事が進む気がしない。
なにか逸らせられる話題……話題……。
「――あっ、そういえば君、初めましてだよね」
「あ!話逸らした!」
「はい。初めましてですね」
「雪乃もそっち側なのぉ……!?」
よし、雪乃さんという女子はこちら側だ。
植坂とは違い、雪乃さんという女子は落ち着いた雰囲気の印象が強い。よく一緒に行動できるなと思うぐらい、植坂との温度差がすごい。
雪乃さんという女子も、この女に相当連れ回されているんだろうな。同情するよ。
わざわざ両手を合わせてまで同情する俺に、どういう感情を持ったのか、雪乃さんという女子は訝しげに見て来る。
「それ、いただきますの合図ですか?それともなにか、道場でもしてるんですか?……どっちにしろ、私には関係ないですけど」
とんかつを食べるためか、横髪を耳にかけながら言う。
なるほど。
雪乃さんという女子はこちら側の人間なのではなく、ただただ興味がないだけのようだ。
「いただきますって意味だね。それで、名前って聞いてもいいかな?」
「
「え、同じ学年なの?」
「同じ学年ですね」
他クラスに興味が無かったとはいえ、まさか同じ学年だったとは……。
雪乃さんという女子――もとい、前崎さんが同学年ということは、こいつも同じ学年なんじゃ?
単純に気になったのもあるが、さらに警戒心をあげる必要にもなる情報なので、俺は早速質問を――
「えっ……ということは私も同じ学年ということ、知らなかったの……?」
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