第8話 食堂のおばさん
50分の授業というのは本当に長い。
今回の担任が相川先生だからよかったものの、別の教師の授業になると暇すぎて突っ伏して寝る生徒もちらほらいる。
というか、俺もそのうちの一人だ。
だが、これからの約40分は俺たち生徒のターンだ。
昼食を食べたり、教室で本を読んだり、体育館でバスケをしようがなんでもいいという、誰がつけたかはわからないが、生徒たちの間では神の時間と名付けられている。
非常にネーミングセンスはダサいが、率直な名付け方に俺は割と気に入っている。
「食堂行こうぜ裕翔」
「いいけど、春樹は?」
俺のことを誘いに来たのは斗羽だけ。
いつもなら春樹も一緒のはずなのだが……。
「あー。あいつなら後輩の女子に呼ばれてどっか行ってたぞ?」
「……なるほど。イケメンだからなあいつ」
「な。羨ましいよ」
「ほんとな」
春樹はどこかしらで女子に作ってもらった弁当を一緒に食べてることだろうし、斗羽と一緒に食堂に行くか。
別に春樹は羨ましいけど、頻繁に女子に誘われるというのも気疲れしそうだ。
そんな醜い嫉妬を二人で交わしながら、廊下に出て食堂に向かう。
俺たちの高校には日替わり食堂という名の日替わりメニューがある。
メニューを食堂に変えただけという、またしてもネーミングセンスが壊滅的な名前だが、メニューが毎日変わるくせに味は本物なので口出しなどできない。
それに健康面にも配慮しており、塩加減も野菜の量もすべてが完璧な日替わり食堂。そんな日替わり食堂の今日のメニューはとんかつ定食らしい。
当然ここまで日替わり食堂のことについて話して気が付いただろう。そう、俺は日替わり食堂を入学以来、休日以外毎日食べ続けている。
それ程までにおいしいのだ。
今日もいつものようにチケットを販売機から購入して、いつものおばさんの所へ持っていく。
「今日も日替わり食堂かい?」
「そうっすね。これ、お願いしますね」
「はいよー」
毎日のように同じものを頼んでいると、食堂のおばちゃんにも俺の顔を覚えられてしまった。
別に嫌な気はしないが、どう話したらいいのか困る。
「俺もこれおねしゃーす」
軽い口で斗羽が俺の隣からチケットをおばさんに渡す。
「うっすうっす」
……やはり、この態度には反応に困る。
一年のころから斗羽はこのおばさんに同じ口調でチケットを渡していると、いつのまにかおばさんが「うっすうっす」という言葉で返すようになっていた。
非常に反応に困るし、おばさんの汎用性が大きすぎて普通に驚く。
「うーっす」
なんでお前は何ともなかったかのように言葉を返せるんだよ。
俺がおかしいのか?いや、おばさんが「うっすうっす」というのに慣れてる方がおかしいだろ!
口には出さなかったが、抗議するように斗羽に目を向けていると、すぐにとんかつ定食が出された。
「おーうまそうだ」
「いつもそれ言ってるよな」
「それしか言いようがなくね?」
「別にそんなことはないと思うけど……まぁいいか」
「そだ。まぁいいのだ」
斗羽がこう言うならまぁいいのか……?とはならないけども、これ以上言ってもきりがないからもういいか。
とんかつ定食を受け取った後、俺たちは空いてる席を探すために周りを見渡す。
空いてる席自体はかなりあるが、ウォーターサーバーから近かったり、返却口から近い方が楽だからそういうところを見つけて行きたい。
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