第6話 運命?いやあってたまるか
案の定、女性に言われた道を進んできたら、俺が住むマンションにやって来てしまった。
本当にこの人は俺のストーカーなのではないか?俺の名前知ってるし俺の家知ってるし俺にだけお持ち帰り要求するし。
そう思った俺は素直に思ったことを女性にぶつけることにした。
「もしかしてですけど、俺のストーカーですか?」
「え?違いますけど」
「ならなんで俺が住んでいるマンションを知ってるんですか」
「ここ羽月さんも住んでたんですね!嬉しいです!」
羽月さんも……?ってことはこいつも住んでいるってことか?
いやいやそんなわけないよな。
現実から目を背けるかのように女性から視線を外し、隣に女性がいない状態でエントランスへと歩きだす。
「じゃ、送ってくれてありがとうございます。気をつけて帰ってくださいね」
これでお別れだと言わんばかりに笑みを浮かべた俺は軽く手を振り、自動ドア前にある操作盤に鍵をさして自動ドアを開ける。
自然に別れを告げたらこの人も何事もなかったようにどこか行ってくれるだろ。てか、そうなってほしい。いや、そうしてくださいお願いします。
頭の中で神に手を合わせる俺は笑顔のまま、何が起こったのか理解出来ていない女性から目を背けてエレベーターのボタンを押す。
「いやちょっと待ってください!なに自然と別れようとしてるんですか!」
やっと理解した女性も慌てて操作盤に鍵を刺して、俺のことを追いかけてくる。
鍵を回して入ってきた?いつの間に合鍵を作っていたんだ!っていう冗談はよして、まじでこいつと同じマンションに住んでたのか。
あの様子だとあいつも気がついてなかったぽいし。でも、一応なにかの間違いかもしれないから直接聞いてみるか。
「もしかしてですけど、信じたくはないんですけど、このマンションに住んでたりします?」
「住んでますよ――って、そんな嫌な顔されるの初めてですよ。やめてください私は嬉しいので」
住んでいた。
ワクドナルドでスマイルのお持ち帰りを要求してきた女店員が、同じマンションに住んでいた。
これ実質、スマイルのお持ち帰りしてるってことじゃね?
この事にもうとっくに気がついている女性は、頬緩ませている。なんか仕組まれた気分で少しうざいな。
「この嫌な顔は、自覚があってやってることだから気にしないでください」
「もっと気にしますよから!」
八つ当たりも兼ねて言うと、分かりやすく緩ませた頬を引っ込め、頬を膨らませた。
よく頬を膨らませる子だな。別にいいとは思うけど、頬の皮が伸びそうで怖いな。
一応、同じマンションの住民には優しくしとかないといけないので、俺はエスカレーターを開きっぱなしにして女性が乗るのを待つ。
「同じ住民の好ですし、名前ぐらい聞きますよ」
「すっごい上から目線ですね!開けてくれてありがとう!
言いたいことは全部言う感じの子か?感情の行き来が激しくてこれはこれでおもろいな。
俺からは関わる予定はないけど、一応からかい甲斐があるということだけは覚えとこう。
「植坂さんですね。今後一切関わることはないと思いますけど、てか全力で逃げるんですけど、覚えておきますね」
「私、追いかけるの得意ですよ?」
「ごめん逃げるの苦手だから手加減して」
「嫌です。ところで羽月さん」
「はいなんでしょう」
この女性――いや、植坂さんが何を言おうとしてるのかは察しが付く。
理由?光るはずのエレベーターのボタンが1つしか光ってないんだよ。要するに、俺とこいつは同じ階に住んでいるということだ。
「運命ですね」
「嫌です。ストーカーが運命の人なんて嫌です」
「ストーカーじゃないですって!エレベーター先に降りさせてくれてありがとうございます!」
「はいはい」
二つ返事で言葉を返した俺は、数個のドアの前を通って一番奥の部屋の前に立つ。
もうここまでで、察しがいい人なら気がつくと思うが、この植坂さんの部屋は非常に、酷なことに俺の隣の部屋だ。
目を伏せて深く溜め息をついた俺は、植坂さんが言わんとすることを予測して耳を塞ぐ。
「やっぱり運命ですよ!って聞いてくださいよ!!」
「近所迷惑ってこと考えてください。耳塞いでるのに聞こえてくるってとんでもないですよ」
「あっ、それはすみません」
「はいはい。じゃ、おやすみなさいね」
「おやすみなさい!」
その言葉を最後に、俺と植坂さんは鍵を開けて各自の部屋へ入っていく。
この数時間に色んな事が起きすぎた俺は、なにも考えることなく、荷物を部屋に投げ捨てベッドに顔を埋める。
「せっかく始めた一人暮らしだけど、実家帰ろうかな。隣の部屋に変な子来た、って言えば帰らせてくれるか?いやでもなぁ……」
帰ったら帰ったでめんどくさい奴らがいるからなぁ……。せっかく始めた一人暮らしだし、少しぐらい我慢するか。そのために極力関わらないようにしよう。そうしよう。
一つの決意をした俺は、一日の疲れで重くなった瞼を開けながら浴場へ向かうのだった。
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