第4話 俺なんかに利なんてありやしなかった
和気あいあいと話しながらワクドを食べていると、あっという間に30分が過ぎていた。
一人で食べる時よりも友達と食べるというのは、やはりいいものだ。
とはいえ、俺含めて春樹も斗羽もとっくにワクドを食べ終えている。もう10時を回ってるので、このまま居座るというのはさすがに迷惑だ。
そろそろ帰るか。
「トレー戻してくるな」
俺の言葉にそれぞれ返事を返してくれた2人から視線を外し、俺はゴミ箱の前に立つ。ポテトのゴミや、バーガーを包んでいた紙を分別し、トレーを返す時だった。
「これから帰るんですか?」
この声……またあの女店員か。
呆れ混じりの息を吐きながら、トレーを戻した俺はレジで聞き飽きた声の方を振り返る。
「そうです――って、私服?仕事はどうしました?」
「終わりましたよ?」
まさか私服で関わってくると思ってなかった俺は思わず半歩後退りしてしまう。
だが、半歩下がった理由はそれだけではない。仕事に来るためならもっと軽い服で来るはずだ。だけど、この女店員――今は違うか。この女性が来ているのは明らかに遊び用……もしかしたらデート用の服だぞ?
「そっすか。お疲れさまです。ではまたいつかどこかで出会わないことを願います」
なんとか動揺を隠して軽蔑の言葉を最後に、女性から離れようとする。
しかし、そんな俺の行動が気に食わなかったらしく、頬を膨らまえて俺の腕を捕まえてきた。
「嫌です、また出会わせます。てか、何処に帰ろうとしてるんですか。私のスマイルをお持ち帰りする予定じゃないんですか」
「死ぬ気で逃げるので出会いません。そもそもスマイルのお持ち帰りを頼んでないです。勝手に追加しないでください。これで料金が上がったらどうするんですか」
「死ぬ気で追いかけるので出会います。大丈夫です。私、今なら無料なので。なんならサービスも付くほどのお得ですよ」
なるほど。
何を言っても下がる気はないんだな?ならいいだろう。さっき言った通り死ぬほど逃げてやるよ。
すっと目を女性から春樹と斗羽の方に向けた俺は言葉を返すこともなく、無言で歩き始める。
「ちょっと!どこ行くんですか!」
「あ、すみません。俺、友達待たせているもので」
目を合わせることなく、ナンパを追い払うように言い訳を並べて更に足の回転スピードを早める。
だが、女性も俺の考えを読み取ったようで、先程の宣言通りに死ぬ気で追いかけだす。
「私とあなたもお友達ですよ?」
「残念ながら俺はあなたのことを存じません」
「いいえ、私が存じているのでお友達です」
「そんな理不尽は俺に通用しませんさようなら」
「こんにちは今ぶりですね私のスマイルをお持ち帰りしてください」
「イヤです」
「ダメです」
両者一歩も譲らない攻防戦。そのように見えるかもしれないがこの戦いは俺に利がある。
まず、目の前の俺の本当の友達である春樹と斗羽が女性のことをあしらってくれれば勝てる。もし、あしらわなかった場合があったとしてもこの女性を気に入っている春樹にお持ち帰りさせたらいいだろう。よし、俺の作戦は完璧だ。
腕を引っ張って俺を止めようとする女性を引きずりながら春樹と斗羽のテーブルに戻り、机を両手で叩く。
「な?お前らもコイツと一緒に帰るのイヤだろ?」
「私はただ帰るのじゃなくて羽月さんの家に行くのです!」
「こんなこと言ってる変態女と一緒にいるのイヤだろ!?」
「イヤじゃないですよね!あと私は変態じゃありません!」
目の前でギャーギャーと騒がれることにめんどくさくなったのか、それとも本音なのかはわからないが、春樹と斗羽が目を合わせて1つ頷いた。
「「お前ら2人、お似合いだぞ?」」
口を揃えて何を言うかと思えばお似合いってどういうことだよ!そんなこと言ったらコイツ絶対浮かれるぞ!?後で覚えておけ!
案の定、女性の頬は緩み始め、ですよね〜とふにゃふにゃな声で言い出す始末。
「ほらほら2人もこう言ってますよ!」
「言葉の綾だろ!ほら、嘘だって言ってくれよ」
ぐいぐいと腕に抱きつく女性を押し出しながら言う俺だったが、2人の言葉は本音だったらしく、椅子から荷物を取ると俺の横で口を開いた。
「裕翔の春を邪魔する気はないぞ。存分に楽しんでこい」
「右に同じく邪魔する気はないよ。今日帰ってあげる仮として、また今度ポテト奢ってな」
「――ちょ!待てよ!」
女性から手を離して春樹と斗羽を止めようとするが、2人に手が届くこともなく、俺の声に反応して振り向くこともなく、ワクドナルドを後にしてしまった。
……まじで言ってるのか?おいお前らまじで言ってるのか?
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