第3話 お持ち帰りはお一人様限定
先程女店員が俺に言ってきた注文内容をそのまま伝え、カルトンにお金を乗せる。嘘のようにあっさりと終わったレジに、安堵のため息をつく。
すると、何も買っていない春樹が不敵な笑みで近づいてきた。
「裕翔楽しそうだったじゃん」
「やめろよ。こっちは野外プレイ好きだって虚言吐かれたんだぞ?」
「あれ、違ったっけ?」
「違うわ!」
野外プレイが好きなわけ無いだろ。俺には異常性癖の1つもないし家でゆっくりするほうが……って何を言ってるんだ俺は。
番号の書かれたレシートを片手に注文を待っていると、怒られ終えたであろう女店員が不貞腐れて戻ってきた。若干頬を膨らませる女店員は俺の方を見るや否や舌を出してプイッと顔を反らせる。
そんなことしてたらまた怒られるぞ。てかなんで俺が悪いみたいにしてるんだよ。被害者ヅラがすごいな。
「あの子知り合い?」
「全く知らん子」
「可愛い子からのスマイルお持ち帰り要求って嬉しくね?」
「まぁ……それは否定はしないけど、初対面の人と付き合うほど俺は軽くない」
「いいと思うけどなぁ」
人の気も知らないでよく言えるよほんと。先に席についてポテトをかじる斗羽をよそに、俺の隣で一緒に待ってくれる春樹と女店員を見ながら談笑をする。
何を勘違いしたのか、俺たちの目線に気がついた女店員は顔を染めてふにゃふにゃと頬を緩ませ始めた。
「本当にあの子のスマイル貰わないの?」
「貰わんって」
女店員の嬉しそうな顔に撃ち抜かれたのか、もう一度俺に問いかけてきた春樹は「なら俺が貰おうかな」と言って女店員がいるレジへ向かって行きだした。
あの野郎、隙があればすぐに彼女を作ろうとする。一途じゃない男はダメだって俺のおばあちゃんの孫が言ってたぞ。
「ねね、俺じゃダメなの?絶対にお持ち帰りするよ?」
春樹はなんで今まで彼女が出来ていないのか不思議なくらいにイケメンだ。俺なんかより遥かにイケメンだから、この女店員も嘸かし嬉しいだろうな。
だけど、女店員から返ってきた反応は俺の予想と反するものだった。
「すみません。私のスマイルはお一人様限定でして」
「あーなるほどね。ちなみにだけど、そのお一人って裕翔のこと?」
すべてを察したのか、頷いた春樹は俺のことを指差しながら言うと、女店員はそうですと言わんばかりに腕を組んで大きく頷いた。
「そうです。羽月さん限定です」
待て、なぜこの女店員は俺の名前を知ってるんだ?さっきも言ったけど俺とこの人は初対面だぞ。てか聞いた本人の春樹が驚いてどうする。
目を点にする春樹ともう訳がわからない俺はお互いの顔を見合わせていた。
「――173番のお客様」
「あぇ、はい」
レシートに書かれた番号を呼ばれ、声を乱しながらも返事を返す。
そして春樹から視線を外し、俺は別の女店員から商品を受け取ろうとする……が、
「それ、私が渡します!」
元気よくトレーを持つ店員さんに提案する女店員に『またお前か』と言いたげに頭を抱える厨房のお偉さん。分かるぞ、俺も同じ気持ちだから頭を抱える気持ちがわかるぞ。
「貰いますね。ありがとうございます」
あの人にトレー取られたら絶対めんどくさいことになりそうだから先に取らせていただきます。感謝の気持ちを込めて微笑みを浮かべながらトレーを預かる。
既に手を伸ばしてトレーを受け取ろうとしていた女店員は笑顔のまま固まってしまい、伸ばしていた手は空中を彷徨っていた。こう言っては悪いとは思うが、かなり気分がいいな。
「早く斗羽の方行くぞ?」
後ろにお客が並んでいなかったからまだ良かったものの、並んでたら相当……というか絶対に迷惑なはずだ。女店員のことなんてほっといて一人寂しくポテトを突いている斗羽のもとに行ってやろう。
「え、あ、おっけい」
この一瞬で様々なことが起きて若干戸惑い気味の春樹だったが、斗羽のことも考えてかすぐに頷いてくれる。
イケメンは内心まで優しいな。気にもしなくていい女店員のこともチラチラと見て心配してるし。
俺は女店員を見ることもなく斗羽と同じテーブルにつき、春樹は相変わらず女店員を心配していた。その時に春樹から言われた話だが、俺に心配されなくて頬を膨らませていたと言う。まぁ当然、それからも俺が気にすることはなかった。
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