第2話 お持ち帰りの要求

「あえっ……。こ、ここで食べる?」


 先程は斗羽を見てて気が付かなかったが、女店員の顔は見るからに赤くなっている。そして俺の答えを聞いて更に顔を赤く染めている。


 ……俺、なにか変なこと言ったか?ワクドをここで食べるって言っただけなんだけどな。


「はい。ここで食べますね」

「い、意外とそういうプレイが好きなんですね……」

「プレイ?」


 プレイってなんだ?大食いするわけでもないし、ましてやゲームをするわけでもない。そもそもゲームの話なんてしてないから違うか。


 わかりかねない女店員の行動に眉をひそめる俺だったが、もじもじと体をよじらせる女店員の言葉によって俺の表情筋は一瞬で固まってしまう。


「私のスマイルをお持ち帰りするのじゃなくて、ここで食べるだなんて……。野外プレイがお好きなのですね……」

「ッ……!違うからな!?ワクドをここで食べるってことだからな!そもそもなぜ俺があなたのスマイルをお持ち帰りすることになってるんですか!」


 女店員の言葉で周りからの視線が一気に集まり、慌てて周りに頭を下げながらタメ語と敬語が入り交じる言葉で誤解を解こうとする。

 だけど、またもやきょとんとした顔で俺の質問に対して、さも当たり前かのように言葉を返し始める。


「私のレジに来てくれたんですから、スマイルのお持ち帰りをご希望なのでしょ?」

「違いますから!あなたが手招きをしてたんでしょ!」

「だって来たそうな顔をしてたから……」

「『自分が来て欲しそうな顔をしてた』の間違いでしょ!被害者ぶらないでくれ!」


 自分は悪くないと言わんばかりに言う女店員は、俺の言葉を聞いてもなお顔を伏せたまま。……いや、チラチラと俺の様子を伺ってきてるな。


「だってぇ……」

「だってじゃないです」


 このままじゃ埒が明かん。俺のお腹が今か今かとチクチクと腹痛を訴えてきてる。1つ息を吐いた俺は会計を済ませてくれと続けて言った。


「わ、私のスマイルもご一緒ですよね?」

「いらないです」


 きっぱりと断り、スマイルなんていらないと目を効かせて言う俺を、女店員はハムスターのように頬を膨らませて恨めしい目を向けてくる。

 この人、自分が可愛いこと自覚してるな?


「なぜですか!こんなに可愛いんですよ!?」


 ……やっぱり自覚してる。めんどくさいやつに絡まれてしまったな。

 女店員のナルシストに反応することはなく、更に炎の力を強める後ろのお偉いさんに目を向けて助けを求めた。


「本当に申し訳ございませんお客様。お手数おかけしますが、隣のレジに移動することは可能ですか?」


 表情は笑ってるけど声が笑ってねぇ……。女店員も恐怖かわからんけど、表情が歪み始めてるし。

 まぁ何であろう自業自得か。この後しっかりとお叱りを受けろよ。


 「はい大丈夫です」と言葉を返した俺は軽く頭を下げてお礼し、カルトンからお金を取って隣のレジに移動した。

 厨房に連れて行かれる女店員に助けを求められたけど、当然助けるわけもなく冷めた目で見送ることにした。

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