ワクドナルドの女店員にスマイルのお持ち帰りを要求されるんだが?

せにな

第1話 ワクドナルド

 とある休日の帰り道。俺こと羽月裕翔はづきゆうとは、友達とワクドナルド前で話し合っていた。


「今日の晩飯ここで買うんだけど、2人はどうする?親が作ってくれてるのか?」


 これまで遊んでいた友人2人――一城斗羽いちじょうとわ松浦春樹まつうらはるきにメニューを指差しながら問いかける。


「お腹すいたからポテトだけ買おっかな」

「俺は遠慮しとく。母ちゃんの料理多いから……」


 2人の様子を見るに、家には晩御飯が用意されていそうだ。春樹だけ量の多さに不満があるようだが、作ってくれるだけ感謝しろと言いたい。

 俺も久しぶりに母の料理を味わいたいな、なんて事を考えながら、メニュー表を見る。

 魚フィッシュでも良いし、チーズinチーズバーガーでも良いんだよな。でもまぁ、休日最後の日曜に食べるのはこれ一択だろ。


 メニューを決めた俺は、先に頼んでいる斗羽の後ろに並ぶ。

 運がよかったのか、別のカウンターが空いており、そちらに目を向けると女店員と目があった。


 もちろん営業中の女店員は満面のスマイルを浮かべて……いるけど、スマイル過ぎないか?

 営業スマイルといえば微笑程度の笑顔のはず。

 だけどこの店員、明らかに営業スマイルとは違う笑みを浮かべてるような……手招きもしてるし。


 怪しむことはしたものの、せっかく空いているカウンターに行かないというのは、少しの罪悪感が心に来る。

 俺は目を細めながらも財布を取り出し、手招きする女店員の前に移動した。


「えーと、チキ――」

「チキン鳥1つとポテトのL1つ。ゴガゴーラのL1つでお間違えないでしょうか?」

「…………」


 押し黙るという俺の対応は間違っていないはずだ。

 だって俺が頼もうとしたものを知ってるんだぞ?エスパーを使って俺の心を見たわけでもないし、誰かがネタバレしたわけでもない。


 なんでこの店員が俺の頼むものを知ってるのかは分からないし、怪しい。

 だから押し黙った。なにも間違ってないだろ?


「あの、間違ってましたか?」


 俺が押し黙ると女店員は笑みを消し、不安そうに俺を見上げてくる。

 間違ってないから黙ってんだって……!


 不服なことに、この女店員は可愛かった。小さい顔を更に小さくするかのように伸びた綺麗な茶色髪。おまけに胸もあり、怪しげな笑顔も普通に可愛かった。そんな女店員に見上げられたらどんな男でも首を横に振るしか選択肢はないと思う。

 実際俺の注文したいものはあってるわけだし。


「いえ、あってますよ」

「よかったぁ」


 再び笑顔を取り戻した女店員は胸を撫で下ろす。

 本当になんだ?俺の熱烈なファンか?それともストーカーか?それなら通報するぞ?

 色々考える俺だが、一先ず気になることを聞くことにした。


「よくわかりましたね。超能力持ちですか?」


 軽く笑いながら冗談交じりに問いかける俺に、女店員はいきなり真顔になって答えだす。


「そんなわけないじゃないですか。どこか頭でも打ちましたか?」

「冗談に決まってるでしょ!」


 千円札をカルトンに叩き付けながらツッコミを入れると、クスクスと女店員はレジを打ちながら笑い始める。


「ふふっ、分かってますよ。少しからかってみただけです」

「……そっすか」


 てか、この人店員だろ?例え友達だとしても営業中にこんなに話してたらダメだろ。いや乗っかった俺も悪いけどさ、この人とは立場が違うじゃん。


 会計をする女店員を横に、厨房の方に目をやると……俺はすぐに目線をレジの方に戻した。

 体から炎が出ているような幻影が見えるほど怒っている――明らかにこの女店員よりも立場が上の――人と目があったんだぞ?目を逸らす以外に選択肢あるか?


「あっ。お持ち帰りしますか?」


 そんな俺と、厨房に立つ人になんて気が付かない女店員はきょとんとした顔で問いかけてくる。

 ここで食べるか家で食べるかなんてその時の気分だが、今日は斗羽と春樹がいるからお持ち帰りはしないかな。

 念の為、斗羽がカウンターからトレーを預かっていることを確認してから口を開く。


「ここで食べます」

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