SLIP SLOP SLAP

エリー.ファー

SLIP SLOP SLAP

 もしも。

 君が生きていたら。

 何もかも忘れて。

 口ずさむだろう。

 なぁ。

 どこにいるのかくらい教えてくれよ。

 ここかい。

 ここにいるのかい。

 教えてくれよ。

 君さえよければ迎えに行くからさ。

 たぶん、そこまで豪華なお迎えにはできないけど。

 僕は。

 君のために車の運転も頑張るよ。

 もしも。

 このビートに乗せて君が何かを語るなら。

 僕は黙るよ。

 死ぬまで黙るよ。

 君の言葉と君の声と君のセンスに酔いたいのさ。

 頼むよ。

 僕の近くで歌ってくれよ。

 僕の近くで喋ってくれよ。

 僕の近くで動いてくれよ。

 寂しくはないのさ。

 別に、僕は君と仲良くなかったからね。

 悲しくはないのさ。

 別に、僕は君のことを詳しく知っているわけではないからね。

 僕と君は話したこともないね。

 僕は、君が使っている言葉で話すこともできないよ。

 君は、僕が使っている言葉で話すこともできないね。

 それでも。

 君のことが好きさ。

 もっと、何かがこじれて。

 もっと、何かが複雑になって。

 もっと、何かがずれていたら。

 君は生きていたのかな。

 君が生きている未来を、僕は生きることができたのかな。

 教えてくれよ。

 僕は君がいない世界も好きだけど、君がいる世界も大好きだったんだぜ。

 君はいないし。

 君に僕の声は届かないし。

 君からの手紙は来ないし。

 でも。

 僕は君のことを忘れないよ。

 たぶん。

 死ぬまで忘れない気がする。

 僕の人生に、死んだ後も寄り添ってくれたのは君しかいないんだ。

 だから。

 僕が死ぬときに、君の曲をかけようと思うよ。

 葬式に合っているかどうかと問われると、結構難しいけどね。

 死んだ後も。

 死ぬ前も。

 生まれる前も。

 生まれた後も。

 全部、大事にしたいんだ。

 君が何者であるかを知らない僕は、君のイメージを膨らませることしかできないよ。

 僕は正解が欲しいんじゃない。

 問題が欲しいのさ。

 不正解を避けようとしているんじゃない。

 問題を求めているのさ。

 君が僕に何かを投げかけてくれることを祈っているのさ。

 今や、僕は狭い部屋で、僕の人生に自作の問題文を投げつけているだけなのさ。

 これじゃあ、つまらない。

 そうだろ。

 君だって分かってるはずだ。

 こんなの良いニュースじゃないのさ。

 悪いニュース。

 情報という海で波乗りも楽しめない。

 これじゃあ、直ぐに溺れてしまう。

 分かり切った事実さ。

 この波に揺られながら。

 空を眺めながら。

 冷たい砂浜で自分が生きていることを感じながら。

 居る。

 要る、じゃないのさ。

 居る。

 そう、そういうことなんだよ。

 僕はね。

 ここに居たいのさ。

 炒る、じゃない。

 射る、でもない。

 居たいのさ。

 そのために、積み上げている。

 砂の城かな。

 いや。

 違う。

 記憶と芸術の塔さ。

 すべての文化を通り過ぎることができるパスポートを持った旅行者さ。

 たぶんだけど。

 そう。

 本当にたぶんなんだけどさ。

 君も、そういう人になれたんじゃないかって思うんだよね。

 君の歌詞を掘り返したことなんて一度もないし。

 君の生き方なんて考えたこともないし。

 君という人を詳しく調べたわけでもないんだ。

 ただ、君の作った世界に酔っただけなのさ。

 本当にそれだけなんだ。

 でも。

 僕はね。

 本当に。

 君と一緒に、生きていけるだろうと本気で思ったんだよ。

 何の繋がりもないはずなのに、心から信じていたんだよ。

 君は、才能の塊で。

 君は、神様で。

 君は、本物の、真理に触れることができる芸術家になれる人間だったんだよ。

 残念だ。

 あれだけ時間が経ったのに。

 僕は、まだ残念に思っているよ。



「どう考えたって、死ぬことはないよ」

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