第46話 料理上手な母
改札口をくぐり、特に用事もないのでこのまま日彩の家に直行だな。
どうやら、日彩は歩いているうちに目が覚めたようで、電車の中の出来事が嘘かのように笑顔で話しかけてくる。
「今日のご飯なんだと思う?」
「ハンバーグとか?」
「ご馳走だよ?」
「ハンバーグでも十分ご馳走だと思うが……」
「ローストビーフとか出て来るんじゃない?」
「流石にないだろ」
ローストビーフは少し言いすぎなんじゃないか?
手間とか肉の値段とか色々考えたらご馳走過ぎるぞ?というか、花梨さんってそんな料理できるのか?性格があんなのだから料理が出来るか不安だ。。
「祝い事とか、特別な日にはお母さん作ってくれるよ?」
「……すげーな」
「でしょ」
俺が泊まりに行くことが特別な日とは思えんが、料理ができるということは分かった。
あんなふわふわしてて、料理ができるというギャップは人によっては惚れてしまうな。顔もいいし。
そんな雑談をしながら俺たちは真っ直ぐと夢咲家へと帰り、家の前でつないだ手を放して扉を開いた。
その時に日彩は名残惜しそうに手を見ていたが……すまん。知人の前で手を繋げるほど俺のメンタルは強くない。
「ただいまー」
「お邪魔します」
俺と日彩は口を合わせて玄関で言い、靴を脱いでリビングへと向かう。
リビングに入り、左を見ればキッチンで最後の盛り付けをしているのか、花梨さんが菜箸を片手に真剣な顔つきで料理たちとにらめっこしていた。
こういう場合はどうすればいいのか分からず、とりあえずリビングの扉の前で立ち尽くしていると、満足できる盛り付けができたらしい花梨さんは、菜箸を置きながらこっちを見てくる。
「あら、いらっしゃい」
「あ、お邪魔します」
花梨さんの様子を見るに、玄関での声は届いていなかったらしく、なぜここに!と言いたげに目を見開いてこっちを見ていた。
「ちょうどご飯出来たのよねー」
「みたいですね。すごく美味しそうです」
「でしょー。私、こう見えてお料理得意なのよ?」
「すごいっすね。尊敬します」
「しちゃってしちゃってー」
うん、素直に尊敬する。
テーブルに並べられているのはさっき日彩が言っていたローストビーフを初めに、パエリヤやカルパッチョ、鯛の味噌やグリルチキンなどがあった。
三人で食べれるのかが不安なぐらい多い……けど、料理の腕はすごい。
それと、絶対食材費が高い。あとで少しぐらいお金返しておこう。
流石に親切にされすぎて心苦しい。
「お母さんと翔、仲いいんだね」
「ん?まぁ目を見て話せる程度にはね」
どこか目を細め、頬を膨らませているようにも見える日彩はキッチンでお水を飲んでいる。
仲がいいかよくないかで言われたら確実にいい方ではあるだろう。
俺がそう思ってるだけかもしれないが、きっと花梨さんもそう思ってくれているはずだ。
「仲いいよねぇ。私たちはもうお友達だよ。お友達」
「お友達なんだね」
よかった。花梨さんもちゃんと俺のことを仲がいい人だと言ってくれている。
盛ってお友達なんて言ってくれてるし、流石は花梨さんだ。何を言い出すかわからん。
「まぁそんなことなんて置いといて、早く食べましょ。冷めちゃうわよ?」
「ですね」
多少不服気な目を向けてくる日彩をよそに、俺はキッチンへと行き、手を洗ってから花梨さんの手伝いをしようとする……が「お客さんなんだから座ってなさいよー」という言葉で手伝いを断られてしまった。
たかがお泊りなのに、こんな良くしてもらう必要はないのだけれども、花梨さんがそう言ってくれるのならお言葉に甘えさせてもらおう。
花梨さんの言葉に頷いた俺は指定された席に座る。
「日彩も休んでていいのよ?」
「私はお客さんじゃないからね」
「それはそうだけど……疲れたでしょ?」
「別に?」
さっき電車の中で熟睡してたやつが何を言ってるんだか。
でもまぁ、母親思いでいい娘だな。
普段もこんな風に手伝いをしてるから、あんな美味しい料理が作れるのだろう。
全てのお皿を机の上に並べ、俺の隣には日彩、そして対面には花梨さんが座り、手を合わせていただきますと食前の挨拶を口を揃えて言う。
家族を亡くしてから、三人以上でこの挨拶をすることはないと思ったんだがな……。
少しうるっとする瞼を何回か瞬きすることで抑え、まずはローストビーフに手を付けた。
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