第17話 メンヘラ?

 その隙に、私は少し頭の整理をする。

 今、翔はなんて言ったの?

 付き合ってないって断言したよね?

 なんで?私、まだ何も言ってないのに、なんで決めつけてるの?


 あーダメだ。メンヘラ女みたいになったら、ますます嫌われちゃうかも。

 とにかく、あの言葉をもう一度断言させたら、私の心が壊れそうだ。

 だから、何もなかったかのように、何も聞かなかったかのように。


 そっと翔の口から手を放し、自分の体も翔から離れる。


「……なにがしたいんだ?」

「別になにも?」

「んなわけあるか。なんで、勘違いされるようなことをしたんだ?」

「私が言いたかったから?」

「察せと言わんばかりの目を向けといて、言ったつもりなのか?」

「言ったつもり」

「……そうか」


 この感じ、翔は怒っているというよりも、どうしようと悩んでいる感じがする。

 私はただ、ジッと翔のことを見つめ「あなたのせいでもあるのよ」と言いそうになる。

 今こんなことを言ってしまったら、更に話が混乱するだけなのでやめておこう。


「……なんだ?」

「なんでもない」

「…………そか」


 なんで、そんなに考えるのよ。

 素直に肯定すればいいのに。

 でも、こんなややこしくなったのは、中学の頃の私のせい。

 ……それが、今では私の意見が変わっている。

 そりゃ、翔も悩んでしまうよね。

 ……ごめん。


 あっという間に疑問を自己解決した私は、ただジッと待ち、翔の答えを聞くことに専念する。

 だけど、一言だけ――


「――ごめんね。変なことしちゃって」


 私が謝ると、相当意外だったのか、目を見開いて私のことを見下ろしてくる翔。


「日彩お前、謝れるのか!?」

「……はい?」


 この人は何言ってるの?

 私だって、普通に謝れるけども?


「いや、中学の頃は俺に謝ることがあまりなかったからな。今回も、どうせかき乱すだけかき乱して、俺に全投げするんだろうなーって思ってたよ」

「そんな最低なこと!――してたかも……?」

「あーそうだ。してたんだよな」

「それは……ごめんじゃん?」

「おぉ!また謝った!」

「でも!これだけは言う!私だって謝るから!!」

「今だけはなー」


 私の言葉に付け加えてくる翔の顔は、本当に驚いているらしく、さっきまでの考えている表情など、微塵も見えなかった。


 でも、さっきとは言え、考えさせてしまったのは私が悪い。

 だから、なぜ口を抑えてしまったのかの後付け理由を言おう。


「私さ?」

「ん?」

「さっき、口抑えたじゃん?」

「抑えたね」

「その理由は、付き合ってるという体の方が、私が翔に家に居やすいと思ったからなんだよね」

「あーなるほど。確かにそれはそうかもな。付き合ってもない男の所に、毎晩……とまではいかないけど、ご飯を作ってやるのはかなり不自然だもんな」

「そ、そうそう!」


 なんか、いい感じに解釈してもらってよかった……。


 私は安堵のため息を吐き、胸を撫で下ろすようにソファーに横たわった。

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