第16話 『まだ』付き合ってない

「ね、二人とも?」

「どうしました?」


 泣き止んだのか泣き止んでないのか、目元が真っ赤であまり分からない花梨さんが俺たちの後ろに立ち、そう言ってきた。


「二人って付き合ってるの?」


 おぉっと、気まずいところついてくるな……。

 俺、振られたんだけどなぁ。

 まぁ、花梨さんは知らないと思うけど、ここは振られた男らしく、堂々と言ってやろう。


「付き合ってないですね」

「まだ付き合ってないね」


 隣から俺とは別の声、女子の声が俺の言葉と重なって聞こえてきた。


 え、なんだって?まだ?まだって言ったのか?いや、流石に聞き間違えだよな。


「ごめん、二人重なってて聞き取れなかったから、もう一度行ってもらえるかな?」

「すみません、俺達の方も色々とごっちゃになってるので、俺が代表して言いますね?」

「わかったわ」


 花梨さんの了承を得た俺は、小さく息を吸って、


「付き合ってま――んん!」


 突然後ろから口を押えられ、最後まで言えなかった。

 変な誤解されそうな部分で止めてしまったじゃねーか!

 今すぐ放せ!誤解されるぞ!!


 そう言う意思を込めて、じたばたとするが、後ろの女――日彩が俺の口元を放すことはなかった。





 口を押えている男がバタバタと暴れだす。

 男と女の力の差は、もうわかっているつもり。だから、慌てて私は抱きつくように翔の動きを止めようとする。


「お母さんには関係ないでしょ?」

「確かにそうだけど……岩瀬君がなにか言おうとしてなかった?」

「してない」


 お母さんの質問に即答で答えた私は、ごく自然に事後報告をする。


「あ、ご飯は翔の家で一緒に、食べたから」


「一緒に」をあえて強調し、お母さんに察せと言わんばかりの目線を送る。


「そうなの?なら、今晩はいらないの?」

「……うん」


 そうなんだけど、違う!

 私が言いたいのは別のこと!


「えーっと、お母さん?」

「なに?」

「これから少し、翔と話そうと思ってるから、先に外出てってくれる?」

「……?…………あー!わかったわ!」


 なんでさっきので察せなくて、これで察せるの!?

 というツッコミを入れたかったけど、胸にいる翔がすっごい睨んでくるからやめておこう。


「ありがと」

「はいはーい、お先にしつれーい」


 目元は赤いまま、だけどテンションはいつも通りに戻ったお母さんは慌てるように玄関を飛び出して行った。

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