第12話 よく寝る元好きな人

「うーっす、終わったぞー」


 何気なく、せめて口調だけでも明るく行こうと、リビングのドアを開けて言うが、何も返事は帰ってこなかった。


 台所を見てみると、洗い物は全て終えており、机も拭いてくれていた。

 だけど、それをしてくれた張本人の日彩が見当たらない。

 ソファーに座ってるのかと思ったが、リビングに入った時には見当たらなかった。


「まさか……」


 ソファーで思いたり、俺はテレビ前に置いてあるソファーの前に移動すると――


「めちゃくちゃ、くつろいでるじゃねーか」


 この家に入った時は、くつろげないかもーなんてことを言っていたが、今となればソファーの上で寝てるぞ?


 いやまぁ、別にいいけどさ?

 さすがに警戒不足すぎんだろ。


「おい起きろー」


 もうそろそろで、20時を回りそうだから、さすがに起こさないとな。

 疲れているところすまんが、あと体を触ってしまうが、許してくれ。


「そろそろ帰らないと、親が怒るんじゃないかー」

「……」


 なるほど、こいつはしぶといな。

 どうしたものか。とりあえず、脅しでもやってみるか。


「起きないとほっぺ触んぞー」

「……」

「もう触んぞー」

「…………」

「はいもう触りまーす」


 ぷにっという音が聞こえそうなほど、柔らかい。

 別に触る気はなかったんだぞ?触る気はなかったが、やっぱり脅しはダメだと思ったから、実際に実行してやっただけだ。


「おぉ、ぷにっぷにだな」


 素直な感想が口からこぼれる。が、日彩が起きる気配は微塵もなかった。


「いや、マジで起きんなこいつ」


 もう置いとくか?いや、最初に言ったけど、親に怒られるかもしれんからな。

 軽くビンタでもしとくか?


 そう思い、俺はぺちぺちと日彩の頬を両手で叩きだす。


「おっ、やっと起きたか」

「まだ眠いから、寝させて」

「ダメだぞ、親に怒られるぞ」

「ならお母さんに電話してぇ」

「なんでだよ」


 っておい、もう寝たぞこいつ。

 俺が目の前にいたら普通警戒するだろ?振ったやつが目の前にいたら、気まずさとか、襲われないかとか、色々と警戒するところがあるだろ?

 ……中学の頃からだが、本当によく寝る子だな。


「おーい。日彩さーん?」


 中学の頃に、一応交換しておいた日彩のお母さんの電話番号。

 本当になんで交換したんだ?って今でも思う。


 なぜ俺が、交換した理由を知らないかって?それはな、日彩のお母さんが強引に交換してきたからだよ。

 だから、スマホの通話長には、不思議にも『日彩の母親』という名前が表記されている。


「本当に、電話かけるぞ?」

「……」


 スマホの通帳を開いたままの俺は、ジト目で日彩を睨む。


 返事は、なしか……。

 もう本当にかけるからな。


 人差し指で通話ボタンを押し、耳にスマホをくっつける。

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