第10話 夫婦?違うね

 どうやら、日彩はヘッドバンキングにハマっているらしい。

 うん、清楚系なのにロックも行けるのは、ある意味ギャップ萌えってやつでいいんじゃないか?知らんけど。


 まぁ、もうそれでいいよって言ってるから、他に違う意味があるんだと思うけど、本人がその違う理由を言わないのなら、本当にヘッドバンキングにハマってるのかもしれないな。


 お味噌汁を注ぎ終わり、二つのお椀を持って机に並べていると、唐揚げが揚がったらしく、油切りバットの上に唐揚げを乗せた日彩がやってきた。


「ご飯も注げる?」

「おーけー」


 こんな風に二人で料理をしてると、夫婦みたいな雰囲気を感じるな。

 まぁ、泣いて振られたのだからそんな未来は訪れないんだけどな。


 あれは一種の黒歴史になりうることだったかもしれない。

 だって、俺が好きだと言ったら、日彩が目の前で泣き出したんだぜ?流石の俺も動揺して「今のはなかったことにしようか?」と口走るほどだったもん。

 そしたら日彩は頷いて、俺と一緒にその日は家に帰った。


 振った後に、その振った男と一緒に帰るというのは、本当におかしな話だと思う。

 いやまぁ、告白自体をなかったことにしようとしたのだから、友達として一緒に帰ろうという意図もあったのかもしれないな。


 まぁどっちにしろ、俺は振られた。だから日彩は、元好きな人なんだ。

 かなわぬ恋というのは、非常に心苦しいものだ。


「「いただきまーす」」


 手を合わせ、口を揃えて言う俺と日彩はお箸を持って唐揚げを一口食べた。


「うっま。やっぱうめーよ、日彩のご飯は」

「ありがと、ゆっくり食べてね」


 素直な感想を言うと、日彩も素直に喜んでくれる。

 どうやら日彩は、俺の食べる姿を見るのが好きらしい。というか、直接言われた。昔、日彩のご飯を食べたときにね。


 そりゃそんなこと言われたら、男は誰だって勘違いするだろう?

 実際、俺は勘違いした。


「ありがとなー」


 でもまぁ、そんな勘違いも今思えば、いい経験だったかもしれないな。

 こんな風に、今はなんの勘違いもせずに日彩と話せているのだから。

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