第7話 荷物持ち

 それから約40分が経過した時だったかな。

 日彩のお金で食材を買った俺たちは、スーパーからの帰り道を歩いていた。当然俺が荷物持ちで、だ。

 あ、金は後から返すからな?


「なぁ日彩さんやい」

「はいなんでしょう」

「案外買うんだね」

「まぁね。食材が買いに行けない日があるかもしれないしね」

「なるほど。これが買い溜めってやつか」

「だね」


 買い溜めか。買い溜め……買い溜め?


「え、本当に一人暮らしの基本を知らないのか?」

「え?常識じゃないの?」

「いや、少なくとも俺はそんなことも知らないから常識じゃない」

「私が知ってるから常識ですー」

「なーんだその理不尽」

「お互い様ですー」


 胸を張り、どことなく自慢してるようにも見える彼女が少し可愛い――いや、恋愛的に見て可愛いとかじゃなく、なんというか……その、あれだ。子供っぽくて可愛いってやつだ。そう!母性だ!母性ってやつだよこれは!


 話を逸らすように咳ばらいを一つしてから日彩に話しかける。


「そ、それで今日は何作るんだ?」

「んーっと、なんだと思う?」

「なるほどそういう感じね?いいだろう当ててやる」


 今、俺が持っている袋の中には数々の野菜と肉、そして片栗粉が入っている。

 その中でも目立つのは鶏肉だな。

 ……いや、何でこんな推理みたいなことしてるんだ?片栗粉と鶏肉があるなら――


「――唐揚げ一択じゃねーか」

「おーよくわかったね」

「多少は料理できるからな」

「すごーい」

「……思ってないだろ」

「よくわかったねー」


 舐めてるな?こいつ。

 俺だって料理の一つや二つ、一人暮らししている社会人並みにはできると思うぞ。


 楽しげに歩く日彩を横目にそんなことを考えるが、実際に比べたことはないので口には出さない。

 あと、こいつは何張り切ってるんだ?ただご飯作るだけなんじゃ……?


「てか、なに張り切ってんだ?」

「そりゃ誰かの家でご飯作るんだから、張り切っちゃうでしょ」

「そんなもんなのか?」

「そんなもんなのよ。……それだけではなんだけどね」


 そんなもんらしい。後半は聞こえなかったが、どうやら人の家でご飯を作るというのは緊張するらしい。

 まぁでも、唐揚げか。もしかしてだが、覚えてるのか?


「もしかしてだけど、覚えてる?」

「なんのこと?」

「ですよねー」


 だよな。俺の好きな食べ物が唐揚げっていうのなんて覚えてないよな。

 ……。なんかなぁ?元好きな人ではあるけど、覚えてて欲しかったなぁ?


「……覚えてるだなんて、言えないよね……?」

「なんか言った?」

「なーんにも」

「ほーん?」


 なんかこいつ、ごにょごにょと喋るの増えたか?

 まぁ言いたいことじゃないのなら、聞く必要も無いか。

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