第5話

公園には行かなくなった。瑞樹と私がいるのは違う世界で、瑞樹はステージの上、私は観客、それを実感して苦しかったから。瑞樹から連絡もあったけど返事はしていない。既読だってつけてない。最低だとは思うけど、もう忘れたくて仕方なかった。でもやっぱりもやもやして何にも手につかなくなりそうだった。それでも、私の気持ちなんて関係なく時間は流れる。テストが訪れる。私の嫌いな、私の価値を決めるもの。


「もう私駄目だ。全然数学分からなかったよぉ。水野さんは?」

「私も、今回は駄目だった。」

「伊織、またそんなこと言って。きっと今回も大丈夫でしょ。」

「良いなぁ、頭良くて。」

「……」

誰もあたしの話なんか聞いてくれない。今回は本当に駄目だった。そう確信がある。きっと瑞樹に負ける。もしかしたら他の人にも負けるかもしれない。もとはと言えば瑞樹が悪い。彼のせいで悩まされて結局集中できなかった。結果は来週返ってくる。その後も私はうじうじしながら、結果を待った。


「やったぁ!前より良い!」

「私は下がったよぉ……」

「お前あんだけ調子乗ってたのにこれか、俺の勝ち。」

「次は僕が勝つからいいよ。」

結果が良かった人も悪かった人もなんだかんだで盛り上がっていた。

「五位……」

もうやばい。他の人からしたら高いって言うけど、私には低いよ。私なんて勉強くらいしかなかったのに。


「ただいま……」

「どうだった?」

「リビングで…」

「分かった、お母さん待ってるから、持ってきなさい。」

一度部屋に逃げ込んだ私は死にそうなくらい焦っていた。こんな結果見せたらお母さんになんて言われるか分からない。失望されるかもしれない。嫌われるかもしれない。いっそ捨ててしまう?駄目だ、そっちの方が、後が怖い。もう勇気を出して見せよう。そう決心してドアを開けた。

「お母さん、これ、はい……」

震える手でお母さんに差し出す。お母さんは一通り目を通した後、眼鏡をはずして眉間をおさえた。そうして、ため息一つ。

「あり得ない。」

その言葉は暗いリビングにはっきり響いた。

「どうして、あんだけ注意して、どうして下がったの?」

「……」

「何か言ったらどうなの、また黙り込んで。」

「ごめん、なさい……」

「毎回毎回謝って、結局これじゃない。で見せて。」

そう言ってお母さんは出て行った。

どうして、認めてくれてもいいじゃん。五位だよ。ねぇ、どうして。

意味も分からず泣いているとお姉ちゃんが帰ってきた。お姉ちゃんも、今日、結果が返ってくることを知っていた。机の上の結果を見たのか、ため息をついた。それに怯えて、体が縮こまる。でも杞憂だったのかも。

お姉ちゃんは静かに私の頭を撫でるだけだった。


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