第4話
桜の花はとうに散り、空は蒼く、薫風は青葉を揺らす。
新緑に包まれた公園でベンチに私は一人座っている。カメラを持って散歩がてらに寄ってみた、大好きなラムネを片手に。
カラン。
軽く振ると瓶の中でB玉の軽く涼しい音が鳴り響く。太陽にかざす。空を閉じ込めたような、水のような、花緑青のガラス玉。陽を溜め込み輝く。
シャッターを切る。写真を撮るだけでは勿体ない。カメラ片手にはじける液体を口の中へと流し込む。
「はぁ、おいしいなぁ。」
やっぱり夏はラムネに限る。
「わっ。」
頬に冷たい何かがあたり声を上げた。勢いよく振り返ると私と同じラムネ瓶を持った彼が立っていた。
「友の頬 ラムネの瓶を 当ててみる」
「もう、なんなのいきなり。」
「いやぁ、お散歩してたら見覚えのある姿があったものでつい。」
「ついじゃないし、それにその歌、いつ友達になったの?」
「え、会った時から?友達じゃないの?」
「……」
呆れて返事もできずにいると、
「あ、友達といえば、連絡先。俺たちまだ交換してない。ちょっとスマホ貸して。」
彼のペースに飲まれていつの間にか、渡していた。帰ってきたころには勝手に連絡先が登録されていた。通知が来て確認してみると、彼から“よろしく”
そう送られていた。目の前にいるんだし、口にすればいいのに。彼を見ると、そんな私の考えが分かったのか、
「せっかく交換したんだし、こっちの方がおもしろい。」
何がおもしろいのかはよくわからないけど、自然と悪い気はしない。
心のどこかに満足している私がいた。
それから私はこの公園によく足を運ぶようになっていた。もちろん彼と一緒に。私はカメラを構え、彼は鉛筆を走らせる。おしゃべりな彼も絵を描くときは静かみたい。おかげでこっちもカメラに集中しやすい。案外、彼といるこの時間も悪いものではなかった。
「そういえばさ、伊織って人の名前あんまり呼ばないよね。」
「んー、そうかな。」
いきなり名前呼び。
「うん、そう。俺だってほとんど名前呼ばれてない。」
「でも話はできるからいいじゃん。」
「そういうのじゃない、名前は大事、名前は。」
「わかったよ、じゃあ……み、瑞樹……」
瑞樹は満足そうに首を振った。
「もう一回。」
「やだよ、恥ずかしい。」
「あんなにクラスの人と楽しそうに呼び合ってるのに?」
「そう見える?」
「あぁ、もちろん。」
「そう、ならよかった……」
「何が?」
「別に。」
クラスメイトなんてみんな詰まんない。ドラマだって興味ない。でも合わせないときっと孤立する。そんな気がして……
「人気者も大変だな。」
「そっちだって同じじゃん。」
「まぁでも楽しいから大変とは思わないなぁ。」
なんで?
瑞樹だって同じじゃないの?
学年中で人気で、色んな人が寄ってきてうんざりしないの?
やっぱり私と瑞樹の間には壁がある。
きっと違う、何か違う、私たちは。
それがわからないから人が嫌になる。
一緒にいて虚しくて寂しくて辛くなる。
こういうひねくれているところが違うのかな。
目の前で笑う瑞樹の顔が眩しすぎて、羨ましすぎて見ることができなかった。
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