第4話

 夏が来る頃、国にはやり病が起こった。

 貴族の訪問は立て続けになり、私たちの忙しさは類を見なかった。

 ソニアは、重篤な病人は癒すことが出来ない。はやり病のものは、皆大抵重篤だった。

 私は寝る間も惜しんで働いて、とうとう倒れてしまった。

 

「ソニア、癒しの力をマリーに」

 

 レオ陛下の言葉が、意識の向こうで聞こえる。

 めまいに揺れる視界の中、私は、早く起きなければ、という気持ちと絶望的な気持ちが襲っていた。

 その時、なにかを打つような、小気味のいい音が響いた。

 

「マリーはずっと働いて疲れているのに、この人非人!」

「な……そもそもそなたが使えないから悪いのだ!」

「わかってるわ! だからこそ、死ぬ気で働いてるマリーを鞭打つなんて絶対にしない!」

 

 曇った思考の中で、ソニアの涙まじりの怒声だけ、やけにクリアに聞こえた。

 私は、ふらふらと身を起こした。

 

「ソニア」

「マリー!」

「癒してちょうだい」

「だめ、休んでて! マリーにさんざん助けてもらったんだもの。私だって役に立つわ」

「いいのよ。私にしかできないことだもの」

「マリー!」

 

 ソニアが私を抱きしめた。人間を暖かいと思ったのは久しぶりだった。

 

「すまなかった。マリー……ソニア」

 

 陛下が頭を下げた。私たちはその言葉を、ぎょっとして聞いた。

 

「ソニア、マリーは辛いでしょうから、癒してさしあげてください」

「でも……」

「心配せずとも、休んでいただきます」

「そなたたちも人間だということを忘れていた」

「ヒース様……陛下……」

 

 私は、感動していた。聖女とは言え、彼らは雲上人だ。対等ではない。ソニアはというと、まだ納得していない様子だったが、私の顔を見ると、覚悟を決めたようだった。

 

「絶対に休ませてあげてくださいね」

「約束しよう」

「では……」

 

 ソニアの癒しの力が、体に満ちる。練習でかけあうことはあったが、あたたかな力だった。これが聖女の力……自分ではわからなかった。

 

「ありがとう」

 

 私の言葉に、ソニアは嬉しそうに笑った。私も笑った。久しぶりに、笑ったと感じられた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る