第3話

 第二の聖女が現れたのは、さらにひとつきたったころだった。

 

「ソニアと申します」

 

 聖女が二人ですって? この世にたった一人のはずの聖女が?

 皆、半信半疑だった。

 しかし、宰相であるヒース様が、教典を手に皆に説明した。

 

「ごくまれにでございますが、聖女様が二人、世に降臨されることがあります。七十年前と三十五年前に事例がございます」

「なんと、誠か……」

 

 これによって、どちらが聖女か、血を血で洗うような事態は免れた。

 私はというと、落胆があった。この世にたった一人しかいない存在だと思っていたのに……

 なら、私は何のために、こんなにつらいことをしているのだろう?

 しかし、それ以上に、この時は安堵していた。

 もう、つらい仕事を一人でしなくていいんだ。休むことが出来るんだ。体が裂けそうなほど痛いのに、笑顔を浮かべ続けなくていい。安心を抱いて寝られるんだ。その思いが強かった。

 


「ソニア、しっかりしろ」

「はい!すみません、レオ陛下」

「まったく、少しはマリーを見習ったらどうです」

「あはは……」 

 

 ヒース様の呆れ声に、ソニアは、頭をかいて笑った。

 私は、貴族の子どもの病を癒したところだった。本来は、ソニアの仕事だ。

 ソニアは、未熟な聖女だった。

 貴族たちが帰っていき、次の貴族が入ってくるまでの、ほんの少しの間に、いつもの御小言が始まった、というわけだ。 

 

「聖女が二人というから、期待したのだが……世の中うまくいかないものだな」

 

 これが若き国王陛下の、目下の口癖だった。

 

「マリー、いつもありがとう」

「いいのよ、私の仕事だもの」 

 

 私はというと、正直、期待外れと言えなくもないけれど……安心していた。

 ソニアの力は弱いけれど、やっぱり一人でやらなくていいという安心感は強い。

 それでいて、自分より出すぎないのだ。ちょうどよかった。

 ソニアへ御小言を言うついでに、皆、私のことを褒めてくれる。

 認めてくれていることが、嬉しかったのだ。


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